世界一のコレクター・浦上 満の視点をたどる『北斎漫画』と私 「北斎漫画を見ると北斎のすべてがわかる」と浦上 満さん。風景画、花鳥画、美人画、武者絵など、多岐にわたった北斎の画業。そのすべてが詰まっているのが北斎漫画なのです。天才・北斎の冴えわたる表現力を辿ります。
「表現」一瞬を捉える
―形のないものは自由なもの

三編七丁裏八丁表
パラパラ漫画江戸時代に流行した「雀踊り」の一瞬一瞬のさまざまなポーズを捉え、見開きで展開。目で追っていくだけでもパラパラ漫画のように人物が動きだしそうだ。アニメーションの原点ともいわれる北斎ならではの表現がここにある。
十二編九丁裏十丁表
見えない風風そのものは目に見えないが、風の巻き起こす現象を描いて風を表している。右の絵は初摺で、突風を感じさせる。だが後摺ではなんと、本来なかった風の線が漫画の効果線のように描き加えられ、説明的な絵になる。「初摺の方がずっとアーティスティック」(浦上さん)。
七編四丁裏五丁表
北斎といえば波『冨嶽三十六景』の“Great Wave”は北斎の代表作で、モナ・リザと並ぶとも評される。北斎といえば“波”なのだが、『北斎漫画』にも寄せる波、引く波、静かな波、荒れる波などいくつもの波の表現手法が示されている。この絵の波はダイナミックで浦上さんが好きなページの一つ。
「表現」個を見る
―芋虫にも個性がある

初編十七丁裏十八丁表より
正確無比虫尽くしもあれば、魚尽くしもあり、花尽くしもある。『北斎漫画』が森羅万象を描いた百科事典といわれる理由だ。その観察眼の鋭さはいうまでもないが、ただ正確なだけではなく、あたかも生命を吹き込んだかのようなダイナミックな表現が北斎漫画の醍醐味だ。
「表現」洒落を効かせる
―現代にも通じるユーモアセンス

十編二十丁表
百面相ユーモアたっぷりに描かれた顔芸は、宴会などで披露される大人の遊びでもあった。いかにも絵手本らしい初〜三編の頃と比べると、北斎の洒落っ気は随所に見られるようになり、北斎自身が描くことを楽しんでいるように見える。
【秘蔵】パリで見つけた持ち主の思いこもる美しい合本

浦上さんがパリで購入した革装の合本。美しいマーブル模様の表装で、7編ずつ二冊にまとめられている。パリの誰かによって『北斎漫画』が大切に扱われていたことがわかる。背には「DESSINS JAPONAIS」と書かれている。
「構成」対比で見せる
―違いと共通点が生むおかしさ

上・九編十二丁表 下・八編十九丁表
太いと細い太った人たちばかりを描いたページがあれば、痩せた人たちばかりを描いたページもある。こういった対比が見つかるのも、全編通して見る面白さ。体の特徴を捉えるばかりではなく、生き生きとしている。
上・二編二十四丁表 下・八編十六丁表
魚も人も二編の魚尽くしのページに描かれた丸々としたおなかをさらすあんこうと、八編の胸をはだけて寝転がる女性の醸し出す雰囲気が何ともそっくりだ。こうした発見を探すのも浦上さんならではの楽しみ方の一つ。
コマ割りで進む
―ページを跨(また)いで時が経つ

右ページ・九編十八丁裏十九丁表 左ページ・九編十九丁裏二十丁表
砲弾の行方は?右の絵に書かれた「炮碌(ほうろく)」とは大砲のこと。鎧を纏った兵が大砲を海に向けて撃ち放っている。そしてページをめくると、砦だろうか、建築物がこっぱみじんとなる瞬間が(左)。時間の経過をコマ割りで見せる現代の漫画と同じ手法だ。
【秘蔵】あの手この手の版元。珍しいケース入りセット

初編から十一編までを1つの箱に収めている。本来十編で完結したはずの北斎漫画の続編が出た記念に版元の永楽屋がセット売りしたものと考えられる。蓋には「文政10年」とある。
(次回へ続く。)
・この特集の記事一覧はこちら>>