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特集 那智瀧(なちのたき)を描く ―― 特別対談 那智瀧とは何か 篠田教夫 × 塩谷亮

2026.04.24

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シンプルかつストレートな瀧をどのように描くか

塩谷 僕はむしろ那智瀧を描くことを避けていたんですが、あるとき、画商さんに「油絵で伊勢や熊野古道を描いてほしい」といわれて初めて那智に行ったんです。神社の境内から階段を下りていくと、瀧が少しずつ見えてくるんですね。

篠田 瀧の真ん中あたりが木立の間からね。

塩谷 それがまず美しくて。それでそのまま下っていくと瀧が天と地を繫ぐ柱のように見えてくる。もう立ち尽くしちゃいましたね。雄大な風景はいろいろ見ていますが、その場の気が全然違う。自然信仰はここから生まれるんだと思いましたね。


篠田 日本人の無意識の中に根差している何かがあるんでしょうね。僕も初めて見たときはやはり圧倒されて言葉になりませんでした。ほんの1~2分見ただけだったんですが、宿に戻ってから、あの瀧を描くとしたらどうやれば描けるかなとずっと考えていました。

塩谷 残りますよね。東京で生活していると、ちらちらとあの光景が頭をよぎる。

篠田 僕は瀧そのものを描くより、周りの岸壁とか樹木を丁寧に描けば、自ずと瀧も浮かび上がってくるのではないかと考えたんです。長時間ずっと瀧を見続けていると、風が吹いたり、靄も やがかかったりいろいろな自然現象が起こる。それで僕はひねくれているんですけど、ちょっと曲がった瀧や靄で滝口が見えない瀧を描いた。今5作目ですが、十分に描き尽くしたとはまだ思えないですね。

篠田さんのアトリエにて「那智瀧図Ⅳ─朧─」(鉛筆、ブリストル紙)。

篠田さんのアトリエにて「那智瀧図Ⅳ─朧─」(鉛筆、ブリストル紙)。

多種の鉛筆と消しゴムを駆使して描く作品では、鉛筆の線条を極力出さないようにするため削り方も独特。

多種の鉛筆と消しゴムを駆使して描く作品では、鉛筆の線条を極力出さないようにするため削り方も独特。

塩谷 僕も季節や時間を変えて結局3回取材に行ったんですよ。冬場は瀧が涸れて、大雨の後は水量がものすごく多く、天気のよい日は岩肌がきっちり出て、曇りの日はしっとり見える。僕の絵は油絵のリアリズムなので、どうしても絵が写真的になりやすいんです。瀧の静止画みたいになったら面白くないので、時間が流れているような絵を描きたかった。だからこうした要素を全部入れました。

篠田 それがあの瀧図になったんですね。

塩谷 篠田さんと逆なんですが、構図を考えるときにどうしても国宝が常に頭にあって、ここはやはり真正面から向き合いたいと思って垂直に描いたんです。

篠田 作品を拝見したときに“湿気”を最初に感じました。塩谷さんは目に見えないものを描こうとしているんだなと。

塩谷 何を描くにしても日本人というか、日本の風土の中で生まれる絵とは何かいつも考えていることなんですよ。

篠田 要するに、自分の中で描いたことのない風景といったらいいんでしょうかね。華厳瀧(けごんのたき)も描こうと思って取材に行ったことがあるんですが、那智のときほどの興味は湧かなかった。那智瀧はあまりにもストレートすぎる。

塩谷 シンプルですよね。袋田の瀧にしても美しいし、絵にはなる。でもそれを写実的に見たとき、瀧以外の装飾的な要素を考えてしまいそうになるんですよ。ところが那智はこのひと筋の瀧を如何に表現するかだけです。直感的、本能的にもう描かずにいられないという気持ちになったのはここしかなかった。

篠田 「那智瀧図」の作者も同じ気持ちだったのかもしれませんね。

篠田教夫(しのだ・のりお)
1947年神奈川県生まれ。90年代後半から鉛筆画を手がける。超絶技巧ゆえ完成するのは年に数点。古寺名刹を描いた作品が多いが、那智瀧もテーマの一つで、既に4点の版画を神社に奉納。今回の展覧会の発起人。

塩谷 亮(しおたに・りょう)
1975年東京都生まれ。98年武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業。卓越した描写の写実画家として活躍。人物や風景の審美的な画風で人気を博する。著書に『塩谷亮の写実絵画教本』(芸術新聞社)。

『那智大瀧展』

●東京展
会期:2026年5月16日〜29日
会場:靖山画廊(東京都中央区銀座5-14-16 銀座アビタシオン1階)

●鎌倉展
会期:2026年5月24日〜6月7日
会場:Gallery 蘇処(神奈川県鎌倉市長谷1-11-43)
お問い合わせ:那智大瀧展実行委員会
電話:03(3546)7356

画家たちが集まって熊野那智大社に取材兼会場の下見に行った際の写真。男成洋三宮司を囲んで。

画家たちが集まって熊野那智大社に取材兼会場の下見に行った際の写真。男成洋三宮司を囲んで。

(次回へ続く。この特集の一覧>>

この記事の掲載号

『家庭画報』2026年05月号

家庭画報 2026年05月号

撮影/本誌・大見謝星斗 編集・取材・文/三宅 暁

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