中央アジアの華麗なる刺繡とジュエリー
シルクロードの手仕事
──広島県立美術館コレクションより──
この春、東京・渋谷区立松濤美術館でユニークな展覧会が開かれます。昨年の大阪・関西万博でのパビリオン展示や漫画『乙嫁語り』などで一躍注目が集まっている中央アジアの美──オアシス都市に生きるウズベク人の多彩な「染織」の世界、遊牧民の誇りと祈り、知恵を映したトルクメン人による重厚な「ジュエリー」は、新鮮で刺激的です。華やかで精緻な手仕事との出合いをお楽しみください。
カラフルな色彩ユニークな造形
東の長安、西のローマを繫ぐ古からの道「シルクロード」の中継地点だった中央アジア。「日本を含むアジアの工芸」の収集を大きな方針として掲げる広島県立美術館では、この地域の染織や金工など多彩な“用の美”を収蔵し研究しています。国内随一の質と量を誇るそのコレクションの中核には、定住民の手による刺繡布、砂漠地帯や草原で暮らす遊牧民のジュエリー、彼らが身に纏った衣装があります。
島国に生きる私たちの美意識とは趣を異にするそのカラフルな色彩、ユニークな造形は、地域性、民族性などを映しています。まだまだ知られていない中央アジアの手わざ、要注目です。
制作地:ブハラ(現ウズベキスタン)
1910年頃 絹ベルベット地に金銀糸刺繡、木綿布
ペルシア語の“針”に由来する美しい刺繡布「スザニ」
スザニは主にウズベク人やタジク人によって制作され、中央アジアの広い地域でさまざまな民族により壁掛けや掛け布、礼拝布として用いられてきた。スザニを作る際には、下図を木綿布や絹布に線描きし、色名を文字で示した布に一族の女性たちが分担して主に絹糸で刺繡する。花嫁は何枚ものスザニを婚家へ持参する習わしがあるため、かつては子どもの頃からスザニの準備をし始めていた。
直線裁断して縫製される中央アジアの民族衣装
用いられる素材は、伝統的に織られてきた絹経絣(きぬたてがすり)や絹布、木版更紗にロシアからもたらされた銅版ローラープリントの更紗など。基本的に直線裁断して縫製される。袖口や裾などの端部には、お守りとして贅沢な刺繡や縁飾りが施された。写真は、頭から被って着用する被衣(かずき)「チルピ」。長老として尊敬された63歳以上の女性が着用する稀少な白いチルピ。
制作:テケ族、トルクメン人
19世紀 絹地に絹刺繡、木綿
独特の美的感覚と重量感。トルクメン人のジュエリー
砂漠や草原で生活するトルクメン人は、清浄な金属と考えられてきた銀製の装身具を身に纏う。銀をベースに不思議な力を持つカーネリアン(紅玉髄)を象嵌したジュエリーは、頭飾り、胸飾り、腕飾りなどバリエーション豊か。他に類を見ない背飾りもある。日常的に乗馬するためか、ジュエリーの着用は上半身に限られる。写真は花嫁用の頭飾り。スカーフなどに縫いつけて装着した。
制作:北ヨムート族、トルクメン人
19世紀前半 銀、鍍金、カーネリアン
飾りボタン「グルヤカ」
グルは花、ヤカは襟を指す言葉。襟もとを装飾するブローチをグルヤカと呼ぶ。飾りボタンの多くは円形。裏側に突起がついており、衣服の襟部分に開けた2つのボタンホールに通して留める。
制作:ジャファバイ・ヨムート族、トルクメン人
19世紀中期 銀、鍍金、カーネリアン、ガラス

制作:西ヨムート族、トルクメン人
19世紀後半 銀、鍍金、トルコ石、ガラス
4月上旬発売 中央アジアの華麗なる刺繡とジュエリー
シルクロードの手仕事
広島県立美術館コレクションより
中央アジアの多彩な工芸品を所蔵する広島県立美術館。日本最大の規模を誇るそのコレクションから選び抜かれた刺繡布、ジュエリー、衣装の名品を収載した唯一無二の一冊です。第1章ではウズベクの「スザニ」を中心に精緻な刺繡布とかわいい刺繡袋を、第2章ではトルクメンのものを軸として高い芸術性と独自性で注目される「頭飾り」「胸飾り」「背飾り」などを、第3章ではウズベク、トルクメンそれぞれの鮮やかな色彩と賑やかな大柄の文様が個性的な衣装を紹介します。
ISBN978-4-418-26212-0 定価2,970円(税込み)
展覧会開催
中央アジアの手仕事
──華麗なる刺繍とジュエリー 広島県立美術館コレクションより──
国内随一のウズベクとトルクメンの染織およびジュエリーコレクションを誇る広島県立美術館所蔵品より、中央アジアで花開いた工芸品の世界を紹介します。定住民、遊牧民それぞれに伝わる刺繡布やジュエリーを通して、繊細にして華麗な手わざをお楽しみいただけます。個性的でミステリアスな文様と豊かな色づかいの刺繡、知恵と祈りが込められたジュエリーは必見です。
渋谷区立松濤美術館2026年4月11日~6月14日
東京都渋谷区松濤2-14-14
TEL:03(3465)9421
https://shoto-museum.jp/