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ピアニストの酒井 茜さん、角野隼斗さん、調律師の山本有宗さんが語る、マルタ・アルゲリッチさんの素顔

2026.02.03

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〔特集〕「広島で奏でる Music for Peace」 ピアニスト マルタ・アルゲリッチ という希望 音楽の歴史に名を刻む、世界最高峰のピアニスト。8歳でデビューし、84歳の今もなお、世界中の聴衆を魅了し続けているマルタ・アルゲリッチさん。とりわけ日本の人々と、深く親密な関係を育んできた彼女が、心を寄せる場所、広島での時間を追いました。

特集「広島で奏でる Music for Peace ピアニスト マルタ・アルゲリッチという希望」の記事一覧はこちら>>>

舞台裏を知る3人が語る
アルゲリッチさんの素顔

ピアニストとして、一人の人間として、さまざまなストーリーを紡いできたアルゲリッチさん。ステージ上の姿や報道からだけでは窺い知れない素顔を、彼女と長きにわたり親交を深めているピアニスト酒井 茜さん、今回初めての共演を果たした角野隼斗さん、そして、どんな舞台にも帯同している調律師の山本有宗さんに伺いました。

酒井 茜 (ピアニスト)

大きな心で、相手のベストの部分を引き出す卓越したエネルギー

酒井 茜(さかい・あかね)
桐朋学園大学卒業。ソリストとしての活動とともに、室内楽でマルタ・アルゲリッチ、ギドン・クレーメル、堀米ゆず子らと共演。ドイツで開催の「マルタ・アルゲリッチ・フェスティバル」アーティスティック・プランナー。ロシアの風物詩を月ごとに12の楽曲で描いたチャイコフスキー「四季」を2025年1月より毎月YouTubeチャンネル『酒井茜 四季の旅』にて配信。

高校生の頃から彼女の熱狂的ファンでした。来日するたび必死でチケットを取り、サイン会に並び、小さな贈り物を渡して。

何年か経ったとき、「あなた、ピアニストになりたいの?私に聴いてほしいの?」と話しかけられ、音大を出て先を迷っていたときも、「よい先生をたくさん知っているわよ。こっちに来たら?」と機会を与えてくれました。神様と思っていた人と、そんなふうに近しくなって。運や巡り合わせを自然に受け入れる人だからなのでしょうね。

本当に、大きな人です。際限なく。そして、誰に対しても対等。あれほど飛び抜けた才能の持ち主なのに、距離を感じさせない。一緒に演奏する人のよいところ、ベストを引き出すんです。オーケストラでも。そして聴いている一人一人が、自分のためだけに弾いてくれていると感じるような、唯一無二の演奏。

一音だけで全然違います。音の密度、スピード……変なたとえですが、大谷翔平さんのホームランと同じ音。エネルギーが超越しています。でもそんなことをいうと、シャイな人だから、「からかっているの?」と怒られちゃいますね(笑)。

20年以上親交を深め、連弾パートナーとしてたびたび舞台に立つ二人。広島のコンサートでは、アルゲリッチさんが初めて弾く、ベートーヴェン「4手のための大フーガ」に挑戦した。


角野隼斗 (ピアニスト)
魔法のように、音色から放たれる “香り” を感じる

角野隼斗(すみの・はやと)
2018年ピティナ特級グランプリ受賞。2021年ショパン国際ピアノコンクールセミファイナリスト。シカゴ響、ロサンゼルスフィル、BBCフィル、N響、読響、ベルリン・ドイツ響などと共演、2025年11月にNYのカーネギーホールでリサイタルデビュー。“Cateen(かてぃん) ” 名義で活動するYouTubeチャンネルの登録者数は150万人超。

子どもの頃からたくさん聴いてきて憧れていた方と、一緒に音を鳴らせるなんて、すぐ隣で聴けるなんて、本当に幸せで。どんなシンプルなメロディーでも、アルゲリッチさんの香りが出てくる。魔法のようです。

ドビュッシーを連弾したときは、音数の少ない単純なモチーフでも、これだけ面白くできるんだ! と、びっくりしました。作っている感じではなく、本能で。音のあるべき場所、あるべき姿が浮かんでいるんでしょうね。自然に湧き出てくるような音楽。放たれる香り。本当に音が香るんです!

ずっと天上にいる人。しかもその技術がまったく衰えず、むしろ進化している。80歳を過ぎて進化し続けているピアニストなんて、歴史上、いまだかつていないと思います。おばあさんという感じもまったくしないし。不思議。

3年ぐらい前に、彼女の演奏会を聴きに行き、楽屋に伺って初めてお会いしたんですが、そのときに、“I know you. I like you. ” といってくださったのが、ものすごくうれしくて。僕はアルゲリッチさんがめちゃくちゃ好きなので、影響されている部分は多くあると思います。

憧れの人と初連弾し、「あなたとはとても弾きやすいわ」といわれたそう。また、角野さんがプロコフィエフのピアノ協奏曲を熱演後、楽屋でアルゲリッチさんが「Fantastic!」と賞賛。


山本有宗 (ピアノ調律師)
絶えず不安に駆られながら、誰よりも努力し続けられる人

山本有宗(やまもと・ありむね)
プレトニョフやアルゲリッチといった多くの巨匠ピアニストの専属として、コンサートツアーの調律を担当。長年にわたり、ピアノメーカーの社員としてヨーロッパに駐在していたが、2024年に帰国し「ARIMUNE Piano Tech.」を設立。今までの豊富な経験や人脈を生かし、国内外の音楽家のサポートや若手の調律師育成を行っている。

世界中の音楽家にとって神様的存在ですよね。群を抜いた才能。でも彼女だけがそう思っていないんです。弾けないといって苛立ったり、自信がなくて不安になって、誰よりも練習する。極めている人にしかわからない差です。

不安を解消するには自分が最大限努力するしかない、やるべきことをやってダメだったら諦めもつくけれど、サボったことは自分でわかるからと、常に見えないところで闘っている。苦しいですよね、きっと。トップの才能と、恵まれた肉体があって、誰よりも練習する。だから今も進化しているんです。技量も音楽性も音量も。何歳なの?って、恐ろしいぐらいです。

もうずいぶん長い間、マルタさんのピアノを調律しています。リハーサルでもギリギリまで練習するので、本番前に僕が調律できる時間はほとんどないのですが(笑)。ものすごい人ですが、とてもかわいらしい女性で、観察していたいというか。本能のままに生きている人って、なかなかいないですから。こんなに愛されているピアニストはほかにいないと思うし、人類にとっての希望だと思います、マルタさんは。

アルゲリッチさんが長年厚い信頼を寄せる調律師。ピアノだけでなく、心の支えにもなっているよう。至高のピアニストの、弱さも強さも気ままさも、溢れるほどのやさしさも知っている。

(次回に続く。この特集の記事一覧はこちらから>>

この記事の掲載号

『家庭画報』2026年02月号

家庭画報 2026年02月号

撮影/本誌・坂本正行 取材・文/内海陽子 協力/山崎博史

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