〔特集〕藤田嗣治からレオナール・フジタへ「祈りへの道」 軽井沢とランス、夢のコラボラシオン 1955年、藤田嗣治は妻の君代とともにフランス国籍を取得しました。異邦人の画家ではなく、フランス人として生きたいと願ったのです。そして1959年、長年の念願を叶えカトリックへと改宗し、レオナール・フジタとなりました。洗礼式を行ったのはランス大聖堂。フジタはランスの地で大きな挑戦をしたのです。
心の平安を追い求めたフジタが描いた宗教画

1952年10月11日午後、パリのカンパーニュ・プルミエール通りにあったアトリエの近所にて。 撮影/阿部徹雄 ⒸSuccession Tetsuo Abe,Tsutomu Abe
レオナール・フジタこと藤田嗣治とは何者でしょうか。1920年代、エコール・ド・パリの代表的な画家として時代の寵児となった人物という光の面はよく知られています。では、影の面はどうでしょうか。フジタは後年、妻の君代に、
「日本を捨てたのではない、捨てられたのだ」
と述懐しています。日本に捨てられた、とはどういうことでしょうか。フジタは戦時中に陸軍に依頼されて多くの作戦記録画(戦争画)を描きました。このことが、戦後になって、日本画壇から戦争責任を負う立場へと追い込まれる不幸へと繫がったのです。
こうして、フジタは1949年に日本を離れ、二度と故国へ戻りませんでした。再びフランスの土を踏んだフジタは、少しずつ名声を取り戻していきます。1955年には妻とともにフランス国籍を取得し、新たな人生を歩む選択をします。そして、1959年10月14日、ランス大聖堂にて受洗し、念願のカトリックへの改宗を果たすのです。
心に深い傷を負ったフジタにとって、宗教画、聖母子像を描くことは祈りの行為であるとともに、心の平安の追求でした。こうして描かれた宗教画のうち、フジタゆかりの二つの美術館、すなわち軽井沢安東美術館とランス美術館に収蔵された作品が、この秋、軽井沢で邂逅します。
洗礼式の後、ランス大聖堂に献納された名作

聖母子 Vierge à l'Enfant
1959年10月14日 インク、墨、金箔、油彩・キャンバス
ランス大聖堂蔵 ランス美術館寄託 Dépôt de l'Association diocésaine (Cathédrale) de Reims au Musée des Beaux-Arts de Reims
1959年10月14日、妻の君代とともにランス大聖堂においてカトリックの洗礼を受け、新たな信仰の道を歩み始めた藤田の洗礼名は、敬愛するレオナルド・ダ・ヴィンチにちなんで「Léonard」(レオナール)。洗礼の日付とともにレオナール・フジタの名前が本作品に記され、ランス大聖堂へと献納された。彼の再出発を告げる、象徴的な一作。

金地の聖母 Madone, fond doré
1960年 油彩・キャンバス
軽井沢安東美術館蔵 Musée Ando à Karuizawa
改宗の翌年に制作された作品。聖母は穏やかな表情を浮かべ、膝に抱かれた幼子には、あどけなさの中にも凜とした佇まいが感じられる。洗礼後にフジタがランス大聖堂に献納した聖母子像には、十字と円形を組み合わせた装飾文様が画面の左右に配されているが、本作でも同じ文様が背景を埋め、宗教的な厳粛さを醸し出している。
ランスと軽井沢を結ぶ貴重なエスキース

聖母(習作) Madone (étude)
1960年3月21日 鉛筆・トレーシングペーパー
ランス美術館蔵 Musée des Beaux-Arts de Reims

金地の聖母(習作) Madone, fond doré (étude)
1959年12月14日 鉛筆・トレーシングペーパー
ランス美術館蔵 Musée des Beaux-Arts de Reims
ヨーロッパ随一のフジタコレクションを誇る
ランス美術館

フランス北部に位置するランス市は、レオナール・フジタが妻君代とともに眠る地。ロココ様式の歴史的建造物である美の殿堂・ランス美術館には2300点を超えるフジタの作品と資料が収蔵されている。現在、美術館は改修工事のため休館中だが、再オープンの際には、フジタ作品を展示する新たな記念室が開設される予定。
ランス美術館住所:8 Rue Chanzy, 51100 Reims
https://musees-reims.fr/reims-museums/世界で唯一無二、フジタ作品だけを展示する
軽井沢安東美術館

2022年10月に、日本初にして世界初の「フジタ作品だけを展示する」個人美術館として開館した軽井沢安東美術館。コレクター安東氏が自邸に作品を飾っていた雰囲気を再現した展示室では、フジタのエポックごとに作品が鑑賞できる。10月4日から開館3周年記念展として「ランス美術館コレクション」展が開催される(2026年1月4日まで)。
軽井沢安東美術館住所:長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢東43-10
電話:0267(42)1230
https://www.musee-ando.com/