〔アート対談〕原田マハさん × 中谷美紀さん No Museum, No Life 人生はいつも美術館とともに・前編 アートをテーマにした小説の名手であり、キュレーターの顔も持つ作家の原田マハさんと、芸術全般をこよなく愛する俳優の中谷美紀さん。お二人にとって美術館とはどんな存在なのでしょう? 世界平和にまで話が及んだ対談から、原田さんと中谷さんの美術館への熱い想いが伝わりました。
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アートを愛してやまないお二人にとって美術館とは?

「私にとって美術館は『ととのう』場所です」──原田さん
原田マハさん(以下原田) 私にとって美術館は「ととのう」場所なんですね。学生時代、テスト前なのに漫画を読みふけっちゃった……、といった思い出がある方は結構多いと思うんですが、なんかこう、締め切りを前に追い詰められると、美術館に行っちゃう。でも、心の中で作品と対話していると、だんだん自分の心がととのってくるんですね。美術館に入るときと出るときでは、気持ちが全然違います。
「美術館へ行くと心が解放され、童心に帰ります」──中谷さん
中谷美紀さん(以下中谷) 素晴らしいですね。私にとっては、童心に帰る場所、心を解放する場所です。大人になると、それなりに社会に適応するため、仮面をかぶったりするものですが、美術館にいるときは素の自分に戻るといいますか。あとは“シェルター”。現実の世界が不穏で殺伐としていても、美術館にいる間は忘れられますから。
「いつも変わらずに迎えてくれる絵画は、友達のような存在」──原田さん
原田 美術館は幸せな空間ですものね。私は「この美術館に行けば、この作品に会える」というのも、醍醐味の一つだと思っているんです。時代を映す企画展ももちろんいいのですが、いつも変わらずに迎えてくれる常設展示室の作品は、何年、何十年と対話を続けられる友達のような存在。美術館やアートは、自分の成長とともに見え方が変わっていくのも面白いところですね。
中谷 はい。最近になって、(ポール・)セザンヌのよさに気づきました。以前はまったくわからなくて、大体素通りしていたのですが。
原田 本物を見たり、知識を深めたりすることで、見方がガラッと変わることはありますね。美紀さんは今、一年の半分をヨーロッパで過ごされているので、本物に触れる機会がたくさんおありでしょう?
中谷 そうですね。(グスタフ・)クリムトも複製画と本物とではゴールドの美しさがまったく異なって感動しました。尾形光琳の影響を受けているだけあって、上質な西陣織や京友禅の金糸のように、抑制が効いていて。そこに浮遊感のある女性が描かれると、えもいわれぬ恍惚感で、しばらく動けなくなります。
原田 ほかにお気に入りの画家はいますか?
中谷 今まではまるで視界に入ってこなかった(ピエール=オーギュスト・)ルノワールに目が留まりました。絵の中の少女が継娘によく似ていたもので。
原田 確かに、ルノワールには、若い女性がとてもチャーミングに描かれている作品がありますね。
中谷 先日、その娘と初めての二人旅でパリに3泊しまして、ピカソ美術館とオルセー美術館、ルーヴル美術館へ行ったんです。彼女の希望でディオールのギャラリーにも。
原田 おいくつですか? お嬢さん。
中谷 13歳です。《サモトラケのニケ》や(レオナルド・)ダ・ヴィンチの作品など、オーソドックスなものをどうしても見せたくて。(フィンセント・ファン)ゴッホの《オーヴェールの教会》と《自画像》、久しぶりに巡回展から帰ったという《ローヌ川の星月夜》も一緒に見ることができました。美術については、4歳の頃から現代アートも含めていろいろと見せてきたこともあってか、彼女は絵を見るのも描くのも好きなんです。ただ、今は思春期で、どの美術館でも、つまらなそうにしているんですよ、わざと。それでも、いくつかの作品をこっそり携帯電話で撮っていましたね。
原田 お嬢さん、ルノワール以外の作品にも似てらっしゃるのだとか?
中谷 《ミロのヴィーナス》、(パブロ・)ピカソの描くマリー・テレーズ……、大概のミューズに似ています(笑)。