今月の音楽人 上原ひろみさん
はじけるような笑顔で鍵盤に向かい、エネルギーをほとばしらせる小柄なピアニスト。その指先から生み出される音楽の波に揺られ、ステージも客席も渾然一体となって高まっていくライブ。
「生きているなあと一番思う瞬間です。ライブの場が本当に好きですし、毎回、一緒に冒険に出よう!と皆を先導する気持ちで、全力で全部出しきります」
やわらかな落ち着いた声、まっすぐな視線で語る上原ひろみさん。
好奇心と探究心で、知らない世界へと向かっていく
バークリー音楽院在学中に、比類なき作曲能力と演奏技術を見出され、アメリカの名門ジャズレーベルから鮮烈な世界デビュー。以来22年間、ソロ、ピアノデュオ、バンド、ハープ奏者や弦楽四重奏との共演など、「ご縁があった方と、互いに『今だ!』と思うタイミングで」多様なプロジェクトを行ってきました。
「音楽活動は、『これが今の私です。私はこれが好きなんですけれど、どうですか?』と表現し、それを一緒に好きと思ってくれる人を探す旅だと思っています」
衣装/LIMI feu
コロナ禍を経た2023年に、Hiromi’s Sonicwonder という新たなバンドを編成。トランペット、ベース、ドラム奏者と4人で、アメリカ、ヨーロッパ、日本、東南アジア各地をツアーで駆け巡り、名だたるジャズフェスティバルに出演するなど、1年の半分近くをライブで過ごしています。
「一体感は、より強くなっている」と確信するバンドの音色に触発され、上原さんの頭の中に次々と曲が浮かび、ソニックワンダーとして2作目のアルバムを制作。タイトル『OUT THERE』には、「知らないところ、行ったことのないところに足を踏み入れる」という気持ちが込められているそうです。
「私がとても大切にしている好奇心や探究心がテーマ。とにかく、外に向かっていくエネルギーが伝わればいいなと思っています」
キーボードも駆使したユニークな音色、軽快なメロディー、広がりゆく響きから、さまざまな情景や時間、空気感までイメージできます。その中に一つだけ、具体的な曲名が……「Yes ! Ramen!!」。「満を持してラーメン愛を表しました(笑)。メンバー全員大好きで、日本ツアー中の楽しみです。ラーメン、テンション上がります!」
アルバムリリースと同時にワールド・ツアーがまた始まります。
2025年5月には、長年続けている矢野顕子さんとのデュオを日本各地で。「お会いして20年。ユニットとして今が一番いいね、という手応えがあります。お互いの支え方、輝かせ方というのかな、今、本当によく合わせられています」
これから目指すことを伺うと、「とにかくずーっとピアノを弾いていたい。作品をつくってどんどんライブをやっていきたいです」。
上原ひろみ(うえはら・ひろみ)1979年静岡県生まれ。ジャズピアニスト。6歳よりピアノを始め、ヤマハ音楽教室で作曲を学ぶ。1999年バークリー音楽院(ボストン)入学。2003年アルバム『Another Mind』で世界デビュー。コラボレーションも含め21枚のアルバムをリリース。アニメ映画『BLUE GIANT』で音楽監督を務め、第47回日本アカデミー賞最優秀音楽賞受賞。令和5年度文化庁長官表彰受賞。
『OUT THERE』
上原ひろみ/Hiromi’s Sonicwonder ユニバーサル ミュージック初回限定盤4180円 通常盤3330円 2025年4月4日(金)発売
2023年春から世界中をツアーしている“Hiromi’s Sonicwonder”の、約1年半ぶり2作目のアルバム。冒頭「XYZ」は上原ひろみデビューアルバム曲の最新バージョン。4曲構成の組曲「OUT THERE」、心躍る「バルーン・ポップ」など、多彩な新曲がラインナップ。エレクトリック色の強いサウンドで、未知の世界へ誘う。