
1936(昭和11)年の創業以来、3代にわたり真珠を見つめてきた「清美堂真珠」が、90周年を迎えた今、あらためて真珠の美しさを探求する連載。今回は工業デザイナーの森澤有人さんとともに黒蝶真珠のジュエリーの新たな可能性を探ります。
・第1回 『古事記』から紐解く 古代より貴ばれた「しらたま」の話→
・第2回 初代から守り抜かれた 真珠への思い→
・第3回 3代目 磯和晃至の約束と挑戦→
・第4回 清美堂真珠の宝物→
・第5回 色とりどりのタヒチアンパール→
・第6回 黄金色の真珠に魅せられて→
・第7回 世にも希少な「スーパーピーコック」→
・第8回 「マベゴールデン」奇跡の真円真珠→
CAGE
まろやかな真珠のフォルムと直線的なラインの出会い
プラチナの籠に遊ぶ大小の黒蝶真珠


磯和 清美堂真珠の創業90周年の節目に、工業デザイナーの森澤さんにお声がけしたのは、今までと違う層の方々にも黒蝶真珠のジュエリーを楽しんでいただきたいとの思いからです。おかげさまで森澤さんが手がけられたプレイステーション5でゲームを楽しんでいるような若い世代の方にも、“このデザインって今まで見たことないよね、新しいよね”と思っていただけるジュエリーができ上がりました。
森澤 私はアメリカの大学時代からジュエリーの勉強をしたいと思っていて、製品になっていませんが、自分で作ってみたこともありました。ですから今回のお話は、待ってました!と、嬉しかったです。以前、ニューヨークのマンホールをデザインしたことがあるのですが、一生残るもの、自分よりも長生きするものをデザインしたいという思いも抱いていました。
磯和 デザインにあたりお願いしたのは、黒蝶真珠を使うことと、既存のジュエリーの考え方にとらわれずに作っていただきたい、ということでした。森澤さんが手がけられたプレイステーション5のように高次元の世界を表現してほしい、ということもお伝えしました。
森澤 ジュエリーには長い歴史があって、デザインをしていても、どうしても過去の何かに似てしまいがちです。でも私は、たとえば指輪だったら輪っかに真珠がのっている普通のものは作りたくなかった。目指したのは、どうやって留まっているのか一見わからないような、安定しているけれどどこか不安定さのあるデザインです。地球上で人間が思いつくものではなく、ほかの星で作られたジュエリーをイメージしました。
磯和 難しかったのは工業製品の精度とジュエリーの世界の精度が若干異なったことです。車や家電などの工業製品は0.01ミリ違っても機能に影響するので精密さが求められますが、ジュエリーは職人の手仕事の世界。特に真珠は貝から生まれる自然の産物なので、同じ球体に見えても一つ一つが微妙に違います。精度を追求するうちに、1〜2か月で完成するかと思っていたのに1年以上かかってしまいました。
森澤 私は工業デザインでもあまり無機質にはしたくない、どこかに作り手の気持ちを表したいと考えています。今回はどこか一点で留まっているように真珠を配置するのではなく、周囲を囲む曲線の中にふわっと浮いて見えたり、重力にとらわれないデザインにしたかったので、そこは職人さんの手仕事が生きたと思います。
磯和 ジュエリー業界の固定概念があると生まれてこないデザインが新鮮でした。
森澤 “四角い真珠は作れますか?”と聞いたりしました(笑)。
磯和 (笑)。たとえば「ケージ」のネックレスには大中小3粒の黒蝶真珠が使われていますが、真珠養殖の世界ではある程度の大きさに育ってから採取するので、小粒の真珠の調達は難しいのです。
森澤 デザインしていくうちにどうしてもサイズの違う珠を使いたくなってしまって(笑)。
磯和 大きさの違う3粒をランダムに並んでいるように留めるのも難しかったです。この「ケージ」は、どんなコンセプトでデザインされましたか?
森澤 真珠という球体が金属の直線に囲まれ、ケージの中に留まっているようなイメージです。真珠という生き物を囲む鳥籠のような感じですね。
磯和 デザイン画を拝見して私が感じたのは、アインシュタインの相対性理論の世界です。
森澤 見る人が自由に捉えていただける余白を作ることが重要だと思っています。作った人が全部決めてしまうのではつまらない。身に着ける人それぞれの物語を感じていただきたいですね。
磯和 「フォトン」はいかがですか? 私には量子力学の世界のようにも、仏教の世界観で永遠に逃れられない輪廻の輪に囲まれているようにも感じられますが?
森澤 こちらは素粒子が中心にある真珠と人の間を飛び回っているような、目に見えない小宇宙をイメージしました。
磯和 どんな人に着けてほしいと考えながら、デザインされたのでしょうか?
森澤 もの作りには愛情が必要なので、身近な人間をイメージするところから始めました。私の場合、まずは妻や母が着けたらどう見えるか、どんな表情になるのかを思い描きながらアイディアを膨らませていきました。
磯和 今回、森澤さんのデザインで真珠のジュエリーの新しい形を見出すことができたと思います。清美堂真珠のモットーである“新しいことに挑戦する勇気”を、これからも持ち続けて参ります。
PHOTON
選び抜かれたパールから無限に広がる宇宙

お問い合わせ/清美堂真珠
電話 03(3408)5799
URL:https://seibidopearl.co.jp/
この記事の掲載号
撮影/栗本 光(静物) 猪俣晃一朗(人物) スタイリング/阿部美恵 取材・文/清水井朋子