

「私たちは、厨子を祈りの道具として だけではなく、心のよりどころとして提案しています」と話す保志康徳さん。
20年以上“これからの祈りのかたち”を提案してきた厨子屋が、パリでの展覧会開催に踏み出した背景には、今こそ心の深みに触れることが世界中で求められているという確信がありました。

保志さんは「祈りとは幸せを願うこと。そこには宗教も国籍も関係ありません。厨子を通して、自分だけでなく 他者の幸せを思う気持ち、つまり利他の心が広がれば、社会はもっと穏やかで平和になるはずです」と語ります。

展覧会の初日に開催されたオープニングセレモニーでは、そうした想いに応えるかのように、予想を大幅に上回る人々が来場。その中で、文化人や会社経営者、工芸に造詣の深いフランス人夫妻など美意識の高い層から、木工技術や塗装、金箔といった日本の精緻なものづくりへの感嘆の声が相次ぎました。
3年間で6回開催される「HAKO」展は、いうなれば、祈りのかたちが国境を越えて、現代の暮らしにどう根づくかを見つめる長い旅。
「厨子は、日々の中で心を整える“精神の鏡”。静かに向き合う時間が、人生に深みをもたらすと信じています」
その言葉に、これからの社会に求められる厨子の役割が見えてきます。
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撮影/武田正彦 本誌・坂本正行 スタイリング/梶井明美 構成・取材・文/冨部志保子