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ただひたすらに読んでは書く。今注目の作家、乗代雄介さんが選ぶ「再読の書」

2021.02.09

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〔乗代雄介さんの再読の書3冊〕




自分の本よりも、これまで読んできた本のほうが話しやすいので、と、今回、再読の書を選んでくださった乗代さん。

「自分の小説について話そうと思っても、書いていたときの感覚にはどうしても戻れません。あと、宮沢賢治が作品を何度も書き直していたことが頭にあるのかもしれませんが、書くことはずっと続いている練習という気持ちがあって、自分の本にも手を入れたくなるんです。出版された本は修正をできませんが、自分の手元にある本には赤字を入れています」


ちなみにブログについては過去に書いた文章に今も、手を入れているそうで、

「書いたときはそのような言葉を使ったけれど、その後、知識が増えて、状況が変わります。あのときに覚えたときめきは本当だけど、それを文章のなかに自分の感覚として保つためには、今の言葉に直さなければ、という気持ちです。そういう修正を10年くらい続けています」とのこと。

自分以外の人には、作品として手に取ってもらっていることはわかっているものの、書くことはプロセスという実感を優先すると、人の本についてのほうが話しやすいという乗代さん。今回は、風景描写の練習に出かけた小旅行に持参したという、今の関心を反映する3冊について話していただいた。

『紀行とエッセーで読む 作家の山旅』
(山と溪谷社)


かなり多くの作家をカバーしているアンソロジーですが、似たような本が意外と少ないんです。収録されている作家もおもしろいし、その作家の全集をチェックしないと拾えないような文章が載っている点で、助かる本です。

何を見るかを含めて、風景を見ているときに、その人の人となりは表れます。たとえば与謝野晶子は、登山をするとこういう気持ちになる、だからやるんだと、目的や利益の面からバーンと書いていて、僕の好みではないけれど、性格が出てます。谷崎潤一郎のは、人から話だけ聞いて、“鉄道が発展してみんなが出かけるようになった山に行く気はないし、そもそも興味はない。近所でいい”みたいなものです。

こういうアンソロジーはつい“山は素晴らしい”みたいなものを集めがちですが、山に興味のない人のエッセイも入っていて、いろいろな見方に触れられるのも嬉しいです。風景を見る目は人それぞれということを思い出させてくれる一冊です。

『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』
宇都宮徹壱(カンゼン)


下部リーグまで全国を取材しているジャーナリストによる本です。地域密着をスローガンに始まったJリーグというプロリーグが大きくなっていくなか、その裾野でどんなドラマがあるかを見せてくれます。1部にいた選手がベテランになると、2部、3部のチームの中心選手となってできることを見いだすとか、サポーターのこととか、チームと地域の関係とかが、詳しく綴られています。

できた頃の鹿島のような情熱は全国各地にそれぞれの形で燃えていて、自分たちがどうあるべきかを模索している。人間の営みとして、サッカークラブという形にはすごく興味があります。

『サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する』
梯 久美子(角川書店)


宮沢賢治の樺太への旅を追うため、樺太に足を運んだ著者が、賢治の旅の道のりを辿りながら書いた本です。『旅する練習』を書くうえで、いろいろ重ねるところがありました。

賢治の樺太行きは、生徒の就職口の斡旋という目的もあったけれど、前年に亡くなった妹のトシがどこにいるのかを思い、探す旅でもありました。著者は賢治の詩群を、その場所で振り返ります。トシを思い返す賢治のことを、後世の人間が思い返す、という目線で賢治を見るわけです。汽車の路線は今も当時と同じで、風景は変わらないところもあり、変わったところもある。そのなかで、記憶は変わるのか、あるいは変わらないのか。そんなことを考えました。

乗代雄介(のりしろ ゆうすけ)


のりしろゆうすけ●1986年北海道生まれ。2015年『一七八より』で群像新人文学賞を受賞し、デビュー。18年『本物の読書家』で野間文芸新人賞を受賞。著書に『最高の任務』、デビュー前から15年以上にわたって書いてきたブログから自選し、全面改稿した『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』がある。https://norishiro7.hatenablog.com/

【乗代雄介さんの最新刊】



中学入学を前にした亜美と小説家の叔父。コロナ禍で予定がなくなった春休み、ふたりは利根川沿いに、徒歩で千葉の我孫子から鹿島アントラーズの本拠地を目指す旅に出る。『旅する練習』(講談社)
取材・構成・文/塚田恭子 撮影/大河内 禎 中島里小梨(静物)
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