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日本の社会状況をリアルに映す家族小説『だまされ屋さん』星野智幸さんへインタビュー

2021.02.10

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〔今月の本〕
『だまされ屋さん』星野智幸 著

星野さん

星野智幸
1965年アメリカ・ロサンゼルス出身。新聞記者を経て、97年『最後の吐息』で文藝賞を受賞しデビュー。2015年『夜は終わらない』で読売文学賞、18年『焰』で谷崎潤一郎賞受賞。著書多数。

70歳の秋代が独居する団地の家に、突然現れた見知らぬ青年。“あなたの娘さんと家族になろうとしているんです”などといって家に上がり込んだ、未彩人(みさと)と名乗る男を相手に、気づけば彼女は家族の悩みを語り始め......。


秋代と彼女の子どもの優志(やさし)、春好(はるよし)、巴(ともえ)、そして彼らの配偶者。バラバラになっていた家族が、謎の訪問者を媒介に初めて向き合い、互いの胸中を知ることで、自縄自縛を解いてゆく。

星野智幸さんの『だまされ屋さん』は、現代の日本で起きているあらゆる家族の問題、その核にあるものを有機的に描いた、アクチュアルな小説だ。

「初めての新聞小説で、今までとは違うかたにも読んでもらいたかったので、冒頭から興味を引くように謎めいた人物を出したり、読者層と近い秋代さんを登場させたり。今回は僕の得意な幻想的な設定は封印して、リアリズムで展開しました」と星野さん。

小説には少なからぬ人物が登場するが、それぞれの人物像が頭にすっと入ってくるのは、個々が抱える問題や相手との関係性が、その細部に至るまでリアルに描かれているからだろう。

「シングルマザー、ルーツの違う人、性的指向の異なる人など、社会にはいろいろな人がいることが普通なのに、たとえば世間には今でも、日本人の親子の核家族が標準であるという人がいます。

こうした普通を標榜する人たちは、そこから外れる人を排除、非難する文脈で“普通じゃない”といって、標準を外れる多くの人たちを傷つけている。でも、誰もが等しい重さを持って生活し、固有の問題を抱えているわけで、その状況を僕は書きたかったんです」

誰でもひとつやふたつは抱えている家族の問題は、友人知人との会話などに着想を得たとのことだが、加えて目を引くのは、巻末に付した参考文献だ。

「小説を読んで、問題をより具体的に考えたいと思ったかたに、その解決の手立てやヒントにしてもらえればと、今回は参考文献を挙げています」

良し悪しはあるものの、人と人との距離が近く、誰のことも放置しない、孤立させない人間関係がある──そんなラテンの国々の人のつながりをよく知り、長く、日本もラテン化すればいいのにと思っていたという星野さんの人間観が透けて見える本作。

「コロナ禍という状況下で、垣根を取っ払って人と人の距離を縮めましょうという小説が受け入れられるのか。ジレンマもありましたけど、こうした時間が続けば続くほど、人々は小説で描いた世界観や価値観を必要とするに違いないと、そう信じています」

『だまされ屋さん』

星野智幸 著/中央公論新社

積年の家族の問題がこじれにこじれ、夫が遺したマイホームを手放し、独り、団地に移り住んだ秋代。

長男の優志、次男の春好、長女の巴ともすっかり疎遠な彼女の家に、ある日、巴と家族になろうとしているという未彩人と名乗る男が現れる。不審に思いつつも、聞き上手の未彩人を相手に、気がつけば巴や孫の紗良のことを話し込む秋代。

一方、別の団地に暮らすアメリカ帰りでシングルマザーの巴と娘の紗良の家には、同じフロアに住む夕海に続いて、優志と春好との関係にストレスを抱えるそれぞれのパートナーの梨花と月美まで転がり込んで......。

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取材・構成・文/塚田恭子 撮影/大河内 禎

『家庭画報』2021年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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