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【スーパー獣医 野村潤一郎先生の動物エッセイ】人と一緒に暮らせる動物たちの話

2020.11.30

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話は横道にそれるが、自然界で起こる何かを解決する手段は、大抵は同じ自然界の中に用意されているものだ。つまり、人間圏で発生する難題は生き物の世界に解決策が存在している可能性がある。

“全ての答えは生物圏に在る”としたら、開発によってそれを破壊している人類は自分の首を絞めていることになる。

昨日絶滅した植物は癌の特効薬の成分を含んでいたかもしれないし、今日絶滅した生物は髪の毛を生やすヒントをくれたかもしれない。


この件については、後でその都度お話しする予定だ。

さて、硬めの話に皆さんの脳が疲労し始めたかもしれないが、話を続けてみよう。

アニマルQ

次に飼育した場合の野生動物と家畜の印象の違いを示したい。

以下の場面を思い描いてほしい。

よく管理された馬場に一頭の逞しい馬が佇んで飼い主を待っている。青毛は黒く艶やかに輝き、たてがみは丁寧に編まれ、そして見るからに上質の頭絡と磨き込まれた鞍はフランス製だ。四肢保護のためのシルクの靴下はもちろんオーダーメイドである──。

美しく高貴な乗用馬の姿である。

一方でこんなのはどうだろう。

古い屋敷の敷地の奥から野獣の唸り声が響く。広い庭の片隅に錆びた鉄の檻が鈍く光っている。濡れたコンクリートの床の上で、頑丈な首輪と太い鎖に繫がれたライオンがこちらを見つめている。幽閉されたサバンナの王はそのたてがみを風になびかせることはもう二度とないだろう。彼は今日も故郷を思いながら、エサの生肉を待っている──。

獣臭がしてきそうだ。かなり悲惨である。

次に想像していただきたいシーンはこうだ。

災害現場に救助隊の使役犬たちが到着した。幅広のナイロンの首輪には指示を伝えるための無線機が仕込まれている。風雨や危険物から身体を保護するジャケットにはチームのマークが刺繡されている。四肢に装着した革製のブーツの底は特殊繊維製で、これは彼らの足の裏を瓦礫やガラスの破片から守るための装備である──。

実に勇ましく応援したくなる雰囲気だ。

ではもう一つ。

ジンタのリズムに乗ってクマが二本足の立ち歩きで登場だ。頭には赤い三角の帽子、着ているチョッキはラメである。タイトな口輪の先には、かろうじてご褒美の角砂糖を食べる隙間がある。パーン!調教師のムチの音で玉乗りが始まる。プーとラッパを吹きながらリングを周回するクマの瞳には何が映っているのだろうか──。

これは悲しい、やめてほしい。

つまり、馬やイヌなどの家畜は人類の役に立ち、人工物の着装が絵になる。一方でライオンやクマなどの野生動物は何者かのエゴのために本来の生活を奪われ、無意味な装飾や拘束具が涙を誘う。野にいる野生動物、ヒトに飼われる家畜、本当はどちらも本来の暮らしで一生を終えるべきなのだ。

「では牛はどうなのか、ブタはどうなのか。同じ家畜なのに馬やイヌと違って食べられてしまう。それで幸せなの?」

と言いたくなる方も多いと思うが、これは交換条件のようなものだから仕方がない。その代わりにヒトが彼らの肉を必要としている以上、そして人類が滅びない限り彼らは絶滅することなく、遺伝子が未来へ存続する保証を得ている。

「一生が短くてかわいそう。死ぬ時怖くて気の毒だ」

実はそうでもないかもしれない。生物全体として見た場合、多くの個体は飼育された牛よりも苦しんで死ぬし、一生の時間についても動物種によってそれぞれだ。

ちなみに皆さんの大好物のウニは実は200年以上生きる。カイメンは1万5000年生きる。ロブスターとベニクラゲに至っては不老不死で永遠の命を持っている。これらの生き物たちに「人間は短命でかわいそうね」と言われても、私は「別に」と答えると思う。
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