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【スーパー獣医 野村潤一郎先生の動物エッセイ】人と一緒に暮らせる動物たちの話

2020.11.30

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スーパー獣医の動物エッセイ「アニマルQ」 犬猫以外の動物の診療経験も豊富な野村先生。だから時には一風変わった仲間たちもやってきます。人と動物との関係を長年見続けてきた野村先生が考える、人と一緒に暮らせる動物たちの話。一覧はこちら>>

第3回 永遠の子供たち


アニマルQ


文/野村潤一郎〈野村獣医科Vセンター院長〉

30年前、ある人からヤマネコを飼いたいと相談を受けたことがある。私は悪いことは言わないからやめなさいと止めたのだが、本人の決意は固かった。


海外から届いたボブキャットの子供は大変に可愛かったが、成長するにつれて飼い主を威嚇するようになり、15キロの大人になった時にはもはや手が付けられず家の中はマーキングの糞尿と爪痕でメチャメチャになり、玄関の戸を開けた瞬間に襲いかかってくるようになった。

結局その家族はこの巨大なヤマネコに家を乗っ取られ、捕獲送還するまでの1か月、一家3人で公園にテントを張って公衆トイレの水を飲みながら暮らした。

単独性の野生動物は、成長したら親代わりだった人間などただの異物扱いになる。対して家畜であるイエネコは決してこんなことにはならず、育ててくれた飼い主をいつまでも親とみなして死ぬまで慕う。

人間の無知と傲慢が生き物たちを不幸にしてしまわないように、ここで皆さんに野生動物と家畜の違いを知っていただきたいと思う。これは意外と重要な概念であり、欠落すると「イルカを殺すなと言うなら松阪牛も食べるな」みたいな変なことを言う人が出てくるので困ってしまうのだ。

先人たちの研究結果によると、地球ができたのは46億年前、生命が誕生したのは38億年前だという。命は海で生まれたらしい。最初のそれは一つの細胞しか持たない微生物だったようだ。やがて世代交代を繰り返し適応放散し、進化や退化をしながら様々な生き物が登場して今に至っている。

なぜそんなことになったのかといえば、どの生物にも共通した目的があるからだ。それはわかりやすくいえば “生まれて育って生き延びて増えて死ぬ”ことであり、全ての生き物が努力をしながら苦痛にあふれた一生を送る理由も、この本能的な欲望に突き動かされて目的を目指すからだ。

適応した者は子孫を残し、それを繰り返しているうちにDNAのタクシーである肉体が環境に応じて変化していく。こういった過程で行われる生産や消費のエネルギーが、気の遠くなるような時間をかけて連続的に自然界を変化させてきたのである。

現在地球には約870万種の生物が存在すると推定されている。これらは全ての種が直接または間接的に関連してバランスを保っている。太古より続くこの調和した世界を“生物圏”という。初期の人類は狩猟採集で日々の糧を得ていたが、農耕牧畜を発明し、野生の掟を常とする生物圏から独立して“人間圏”を確立させた。飢える危険の少ない画期的な理想郷だ。

ここに食料の保証にあやかりたい様々な生き物が参入を試みるが、ヒトの暮らしに害をなす存在は駆除され、使役や食肉などに適した有益な獣たちが順次招かれた。それらが人類と運命共同体の“家畜”になる。

ちなみに生物圏からの人間圏独立戦争の勝利の鍵は、万能使役獣であり人類最古の家畜でもあるイヌの存在だったはずだ。もしもイヌたちの献身的なサポートがなかったら現在の人類の生物学的地位はありえなかったと思う。

こうなってくると、生物圏と人間圏は完全に別れて別々に生きるべきだが、実をいうと、独立したはずの人間圏は生物圏に内包されているのだった。つまりヒトも家畜も生き物である以上は、生物圏の掟から永遠に解放されることはない。
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