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がんになった医療者の治療選択と向き合い方。看護師 射場典子さん 第1回(前編)

2017.12.01

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卵巣破裂でがんが見つかり、卵巣と子宮を残すか、残さないかの二者択一に。 この先も生きるため、がんを取りきる方法を選ぶ


先輩患者から聞いた体験談が闘病中の大きな支えになる


射場典子さんは看護師として外科病棟で働いたのち、がん看護を専門とする看護教員になりました。そして、聖路加看護大学(現・聖路加国際大学)で教鞭をとっていた42歳のとき、卵巣がんを発症しました。今から12年前のことです。「向こう岸(医療側)から見えていた風景とはまったく異なる景色が広がっていました」と射場さんは患者になって強く感じたことをこう表現します。

がんそのもの、がんの治療・ケアに関する専門的な知識と技術も十分に持ち合わせていたはずなのに、実際自分の身に起こると不安と戸惑いの連続だったといいます。「幸い私の周りには卵巣がんにかかった友人や教え子がいて、そういった先輩患者さんの体験を聞けたことが闘病中の大きな支えになりました」。それは“がんを体験した患者にしか語れない言葉がある”ことを気づかされる出来事にもなりました。


こうした経験を経て、射場さんは今、患者が語る闘病体験をデータベース化しインターネット上で無料公開するプロジェクト「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」の活動にかかわっています。「私たちのウェブサイトを誰よりも利用していただきたいのは診断されたばかりの、あるいは治療や療養中の患者さんとそのご家族です。かつての私がそうであったように、同じような闘病体験を持つ患者さんの語りに触れることによって病気と向き合うための知恵と勇気を得てくださることを願っています」(射場さん)。

閉経後にかかる人が増え、女性の200人に1人が罹患


射場さんを襲った卵巣がんの発症は、40代から増え始め、50代前半から60代前半にかけて最も多くなります。国立がん研究センターの統計(2013年)によると、新たに卵巣がんと診断された人は年間に9804人で、一生涯に罹患する人の数は約200人に1人となり、発症頻度はそれほど高いものではありません。

ただ、がんの初期の頃は自覚症状がほとんどなく、「下腹が出てきた」「おなかが張る」「トイレが近い」などの症状が現れたときはすでに進行していることも少なくありません。見つかりにくいがんのため“サイレントキラー”とも呼ばれています。

射場さんの場合は、仕事中に突然、床を転げ回りたいほどの激しい下腹部の痛みに見舞われ、大学に隣接する聖路加国際病院の救急外来を受診して超音波検査を受けたことでがんが見つかりました。「超音波の画像を見ていた産婦人科医の顔色が急に変わり、“もしかしたら、悪いものかもしれないね”とおっしゃったので、私も画像に目をやるとおなかの中に黒い雲のような影がモクモクと広がっていて……。あっ、これはがんだと一目でわかりました」と射場さんは発見時の状況を淡々と語ります。

その後、CT検査を行い、片方の卵巣がおなかの中で破裂していることも判明しました。射場さんのように卵巣が破裂してがんが見つかるケースは少なく、全体の1割未満だそうです。

「あとから考えると下腹が出てきたり、トイレが近かったりと体に異変は起きていたのです。でも、まさか卵巣がんだと思わないから下腹が出てきたのは運動不足のせいだと勝手に思い込んでいました……」(射場さん)。また、精密検査を受ける過程で以前からあった卵巣囊腫の大きさが9センチになっていたことも知りました。

近年、卵巣がんの組織型(がんの顔つき)によっては前駆病変(がんに進展する可能性のある病変)に子宮内膜症がみられることが指摘されており、なかでも「チョコレート囊胞」と呼ばれる卵巣囊腫はがん化する可能性があることが明らかになっています。

「私の場合もがん化を防ぐために経過観察を行い、必要に応じて摘出することも考えなくてはいけなかったのです。ところが卵巣囊腫があることはわかっていたけれど、大きさまで認識しておらず放置してしまった……。その頃は仕事が多忙を極め、さらに父が前立腺がんを患っていたので、その世話で自分の体をいたわる余裕はありませんでした」と射場さんは悔やみます。

このような経験を踏まえ「40~50代の女性は私と同じような状況に置かれやすく、体のメンテナンスが後回しになりがちです。しかし、一家の主婦が倒れると家庭生活が立ち行かなくなるため、自分の健康も大切にしてほしい」と訴えます。

(後編に続きます)

「君が生きていてくれるだけでいいんだ。病床で夫がかけてくれた言葉に励まされました。家族のためにも生きなくっちゃ。がんになり、私の新たな人生が始まりました」

取材・文/渡辺千鶴 撮影/八田政玄 写真提供(②、③)/射場典子さん 医学の記事は毎週金曜更新です。
「家庭画報」2018年1月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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