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ゆるやかに、深く、現実と幻想を行き来して。川上弘美さんの“小説を書くということ”

2020.11.10

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〔川上弘美さんの自選の3冊〕




小説、句集、エッセイ集から日記まで、多くの著作を発表されている川上さん。自選の本について、“そのときどきで変わりますけど、今、考えて選んだのはこの3冊です”と挙げてくださったのは、果たしてどの作品でしょう。

『これでよろしくて?』(中公文庫)


20~60代の女性がいろいろな「これでいいのか問題」についておしゃべりする小説です。だんなのごみ捨て問題、姑との細かなこと、仕事の話、夫婦関係について、深刻にではないものの、ディープに話し合っています。


10年ちょっと前の本で、女たちの状況はもう少しよくなっているかなと思えば、全然変わっていなくて。別に男性を責めているわけではなく、社会がそういう構造になっているために、なかなか変化しない状況における、「これでいいのか問題」がいろいろ出てきます。

『神様2011』(講談社)


「神様」の世界で原発事故が起きたらどう変わるのか。2011年の東日本大震災の原発事故から2週間後に、書き直してみたのが『神様2011』です。デビュー作の「神様」と「神様2011」、そして事故に対する自分の気持ちを書いたあとがきを収めています。

オリジナルでは無防備に道を歩いていたのが、防護服を着て歩かなければいけないとか、そこに放射性物質があるから、草原ではなく違う場所に座らなければいけないとか、書き直したのは、全体の1/10にも満たない部分だけ。些末な変化なのに、世界が大きく変わってしまったことをひしひしと感じながら、書きました。

今回のコロナ禍も、そう。私たちの日常って、ほんとうにちょっとのことで大きく変化するんだなって。哀しみも、不思議さもあるけれど、でも、そうは言っても哀しんでいるばかりじゃなくて、私たちは生きているんだという誇りのようなものもある。今、これを読むと、あらためていろいろ考えられるかなと思って選びました。

『某』(幻冬舎)


自我は確固としたものではありえないのでは、と話しましたが、そういう考えを言語化しても、ただのおとぎ話、架空の話としてではなく実感してもらえるのが、今の時代じゃないでしょうか。

『某』では、記憶を持つことができず、いろいろなひとになってゆく人間を描いています。設定はSFのように見えるかもしれないけれど、ただのアイディア・ストーリーではなく、自分のこととして読んでくださる読者は10年、20年前よりずっと増えていると、そんなふうに感じています。

連載「小説を書くということ」バックナンバー>>

川上弘美(かわかみ ひろみ)


かわかみひろみ●1958年東京生まれ。94年、『神様』でパスカル短篇文学新人賞を受賞。96年『蛇を踏む』で芥川賞、2001年『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞、15年『水声』で読売文学賞、16年『大きな鳥にさらわれないよう』で泉鏡花文学賞を受賞。句集に『機嫌のいい犬』、近著に『このあたりの人たち』『某』など著書多数。

【川上弘美さんの最新刊】

すべての女を虜にする男、ナーちゃんと結婚した“わたし”は、夢のなかでは別の女として恋をするようになり……。『伊勢物語』に材をとった長編。『三度目の恋』(中央公論新社)
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