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【野村潤一郎先生の動物エッセイ「Q」を探せ!】私を熱狂させた“怪獣”と呼ばれる巨大な生物たち

2020.11.05

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アニマル

高級網の本当の目的を告白しよう。

“人魂”を獲ろうと思っているのである。


「我慢して黙って聞いていれば、また!」と皆さんの声が聞こえるようだが、けっこう本気だ。私の胸の中にはいまだに「Q」が棲んでいるのだ。

実は55年前にその類のものを見たことがある。当時の私はよく親戚の家に預けられた。初めて泊まる練馬の叔母さんの家は周囲がジャングルのようだった。

昔のこの地区は緑の多い新宿よりもさらに自然豊富で、夜になると何かの獣の叫び声が聞こえてくるほどだった。昼間でも薄暗い森で迷ったら一生帰れないと思った私は、道しるべを付けながら広大な緑の海の小道を進んだ。もはや昆虫採集というよりも密林探検のようだった。

しばらく進むと、木漏れ日に混じってチロチロと青く光る不思議な何かに気が付いた。近寄ってみると、それは地面の上で燃える炎(?)だった。

私は50センチの至近距離まで近づき、しゃがんで観察した。半ズボンからでた足に熱さは感じなかった。反対側の地面が陽炎のように揺れながら透けて見えていた。眺めている間その光は何の動きもなかった。

まだ4歳の私は初めて見るものも多かったので、今回も「自分が知らない普通にあるもの」と結論し、興味を失ってその場を後にした。かなり遠くまで歩いてから振り返ると青い光はまだそこにあった。

しかし帰り道に同じ場所を通るともう何もなかった。今思うと、あれをどうして追究しなかったのかと悔やまれる。

人魂の正体には諸説ある。

昔からの定番は地中の死体によるリンの燃焼説だが、実は骨のリンは発光しない。近年では研究室の装置の中で再現されたというプラズマ説が主流になっているものの、光が強烈すぎてそれでは全てを説明できない。稲妻の一種の球電説もプラズマに準ずるものだろう。

蜃気楼説、そして一定条件で月が小川に反射してそう見える月光錯覚説については、何がどうなれば人魂に見えるのか理解できない。ヤマドリが日を浴びて輝くヤマドリ説、この大きな鳥はふわふわ飛んだりしない。

落雷の電磁波によって脳内に磁場が誘起されて、集団錯覚する眼内閃光説、かなり無理矢理だがありえないことではない。沼や土中から発生するメタンが燃える可燃性ガス説、私が森で見たものはこれかもしれない。いずれにしてもこれらは網では獲れないだろうし、情緒がなさすぎる。

私の理想の人魂は、夏の夜に真っ暗な山の中をぼんやり光りながらフワフワと尾を引いて飛ぶ、あのオバケ的なやつである。もしそんなものが存在するとしたら……その正体は発光バクテリアをまとった微細な昆虫の群れなのでは? それが蚊柱のようにかたまって光りながら飛行をしているのではないか……。これが私の仮説である。

生物の世界に生きる変わり者の偏った考えかもしれないが、実際に私はニューギニアの奥地で太陽光に照らされて光る蚊柱(蚊玉)に仰天したことがある。夜間に高密度のそれが発生し、そして何らかの理由で発光するとしたら……。是非とも発見して捕獲、研究のために飼育したい。

「Q」は決してよた話などではない。どこにでもあるし、誰にだって見える。そして、もしも科学的に謎が解明できたとしたら、その瞬間こそが「Q」の完成形なのである。

野村潤一郎(のむら・じゅんいちろう)

野村獣医科Vセンター院長。至高の動物愛とブラック・ジャックなみの手術の腕は当代随一。自ら100頭以上の動物を飼育する、車とカメラが好きなマルチ獣医。コロナ禍でも動物たちは待ってくれない。最愛のものたちの命を守るべく、休日なしで日々奮闘中。
〔連載〕スーパー獣医の動物エッセイ「アニマルQ」
『家庭画報』2020年11月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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