エンターテインメント

松本幸四郎、草間彌生 最新作と巡り会う

2020.11.04

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国境を超え、時代を超えて人々の心に響くのは
「希望が感じられる美しさ」


松本幸四郎、草間彌生 最新作との邂逅
《無限の鏡の間─宇宙の彼方から呼びかけてくる人類の幸福への願い》(2020年)
1965年から手がけている鏡を用いたインスタレーション作品の最新作。4色のライトが鏡張りの部屋のなかでまたたきながら増殖し、鑑賞者は星屑に埋もれるような感覚を味わう。しばし光のなかに佇んでいた幸四郎さんは、「ここに1時間こもったら自分は何を思うか。それが知りたいです」と話しました。


世界中で高い評価を得ている草間彌生さんの個展は、これまでアフリカと南極以外すべての大陸で開催されてきました。草間さんの作品の何が国境を超え、時代を超えて人々を惹きつけるのか。アメリカ・ラスベガスの公演で万雷の拍手を浴びた経験を持つ幸四郎さんに尋ねると、「やはり〝美しさ〟ではないでしょうか」と答えたのち、しばし沈思黙考。そして「希望が感じられる美しさだからかもしれません」と噛み締めるように続けました。

去る4月、草間さんは自身を代理するギャラリーのウェブサイトを通じて、新型コロナウイルスの感染拡大が続く全世界へメッセージを発信しました。その冒頭に、幸四郎さんが草間芸術に見出した「希望」の文字があります。「我々の念願の彼方に輝く絶大なる希望を、いつも願ってやまない その光こそ来たれ それは我々が待ち望む大いなる宇宙の輝きである」

草間さんが「最愛の人間たち」に向けて綴った387文字のメッセージには、「希望」「愛」「平和」など、草間作品のタイトルに頻繁に登場する言葉がちりばめられていました。

松本幸四郎、草間彌生 最新作との邂逅

この日、美術館を一周した幸四郎さんは、ずっと心にあるという草間さんの言葉を教えてくれました。

「祝幕の依頼でお目にかかった際、いちばん胸に刺さったのが、草間さんの『一緒に新しいことをやりましょう』という言葉です。あれほどの歴史、実績をお持ちのかたがさらに先へ行こうとされている。すごいかただと改めて思ったのです。同時に『新しいこと』とは?と思いました。というのも、僕自身は30代で新しいものを探すことをやめたからなんです。今は『こんなことができたら面白いな』と考えてきたことを、一つずつ形にしているところです」。

ラスベガス公演やフィギュアスケートとのコラボレーションなど、歌舞伎の可能性を追求し続けている幸四郎さん。そのどれもが若い頃から温めてきたものだといいます。「ラスベガスもフィギュアも実現する10年ほど前からやりたいと話していました。僕はやりたいことは必ず公言するんです。ずっといい続けたら、いつか誰かがやらせてくれるかなと思って(笑)」。

この夏、世界初のオンライン歌舞伎として注目を集めた「図夢(ズーム)歌舞伎『忠臣蔵』」も、長年やりたかったことの一つでした。「図夢歌舞伎」は通常の舞台中継とは異なり、役者のアップなども効果的に入れたライブ映像で歌舞伎を見せる試み。幸四郎さんが、事前に収録した自分自身や、亡き祖父、初代松本白鸚と共演するといった、驚きの演出も話題となりました。

「歌舞伎をなくすわけにはいかないという一心で『舞台以外にも芸をお見せする場があるはずだ』と考えて辿り着きました。でも、映像を生配信するというのは、昔からできたらいいなと思っていたことで、それが今だったのかという思いです。照明も大道具さんも音響さんもすべて、歌舞伎のスタッフにお願いしたのは、みなさんの腕を鈍らせてはいけないとの思いから。映像の撮り方を筆頭に手探りでの制作でしたが、ひさしぶりにいつものスタッフと歌舞伎ができたのは本当に嬉しかったですね。現在は幸せなことに舞台が再開しましたが、映像は歌舞伎を観る選択肢の一つになってほしいので、掘り下げていきたいです」。

決意を語る幸四郎さんの横顔は、草間作品に通じる「希望が感じられる美しさ」を湛えていました。

松本幸四郎、草間彌生 最新作との邂逅
《マンハッタン自殺未遂常習犯の歌》(2010年)
巨大な草間さんが自作を背景に幻覚体験を歌う映像が左右の合わせ鏡に映り、無限に続くかのようなビデオ・インスタレーション作品。草間さんが歌うのは、自身初の小説『マンハッタン自殺未遂常習犯』に収められた詩に自ら曲をつけ歌にしたもの。「鏡の中の草間さんを追いかけたくなります」と幸四郎さん。

「新しいことをする」とは、どういう意味でしょうか?ー松本幸四郎

草間さんの作品をもとに襲名披露興行の祝幕を作らせていただいた際、「一緒に新しいことをやりましょう」とおっしゃった言葉が胸に刺さったまま離れません。今もずっと考えています。

心から自分の真実の道を歩んでいくことですー草間彌生

「新しいことをする」とは?という幸四郎さんの問いかけを受け、草間さんが後日、こんな言葉を返してくださいました。

Information

『我々の見たこともない幻想の幻とはこの素晴らしさである』 at 草間彌生美術館
2010年以降に制作された日本初公開(一部は世界初)の近作・新作のみで構成された展覧会。「草間芸術の現在」に触れることができる。近年、最も力を入れている絵画シリーズ《わが永遠の魂》の最新作群や、本展のために制作された世界初公開の没入型インスタレーション作品等を展示。日本初公開の《フラワー・オブセッション》は参加型プロジェクト。鑑賞者は自ら花柄のステッカーまたは造花を貼りつけ、花で埋め尽くされた空間で自らが消滅するような感覚を体感する。

日ごと様子が変わっていく《フラワー・オブセッション》(2017年/2020年) 写真©YAYOI KUSAMA

草間彌生美術館
東京都新宿区弁天町107
info@yayoikusamamuseum.jp
2021年3月29日(月)まで
11時~17時30分
日時指定予約・定員制(美術館のウェブサイトwww.yayoikusamamuseum.jpでのみ販売)
火曜・水曜(祝日は除く)、年末年始休館
一般1100円(税込み)
TEL:03(5278)1778


この特集の掲載号
『家庭画報』2020年11月号

税込み表記のない価格はすべて消費税別の本体価格です。
撮影/宮﨑裕介〈SEPT〉 スタイリング/川田真梨子 ヘア&メイク/KUBOKI〈スリーピース〉 取材・文/清水千佳子

『家庭画報』2020年11月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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