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“普通”に縛られた社会のなかで軽やかに書き続けて。温 又柔さんが信じることばの力

2020.10.20

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〔温 又柔さんの自選の3冊〕




小説を書くことが好きだけれど、自分の作品を音としても楽しんでもらえるなら、朗読もぜひやりたいと、書くことと読むことのあいだを柔軟に行き来する温さん。

まだ、書いた小説はそれほど多くないんですけど……といいながら挙げてくださった自選の3冊。

『来福の家』(白水Uブックス)


表題作の前に書いた「好去好来歌」で文学賞の佳作をいただいて、“見合う作品をもうひとつ書けたら、本にできますよ”といわれて書いたのが、「来福の家」です。「好去好来歌」の主人公の縁珠が独りぼっちで寂しい感じだったので、同じテーマで明るいトーンの話を書きました。私のなかでは双子の姉妹のような小説になっています。「来福の家」は福を招き寄せようという気持ちで考えたタイトルで、持っていると福が来る、縁起物のような本になればいいな、と(笑)

いちばん最初の小説は、やはり自分の源だと思っています。

『空港時光』(河出書房新社)


空港を舞台にした短編集です。子どものときから飛行機と空港が大好きでしたが、あるとき、“日本と台湾のどちらが故郷だと思うか”と聞かれて、自分にとって馴染み深いのは、どこともいえない空港だと、ハッと気づいたんです。

空港は長期休暇に台湾の祖母に会いに行く前に通過し、休みが終わればそこを経由して日本に帰る場所です。空港はある種、祝祭的な、旅行好きの人にとってワクワクする場所で、そのワクワク感を移動中という設定で書いたらどうだろう、と。台北と東京のあいだでのことを書くなら、短くてもその背後に、日台の歴史が少し見える書き方をしたくて、自分が取り組みたい日台の問題を、物語の兆しとして提示しました。

『わたしたちの聲音』(サニーボーイブックス)


音楽家の小島ケイタニーラブさんとつくったCDブックです。同い年のケイタニーラブさんはとても文学的な音楽家で、一つひとつのことばを大切にされるし、ことばを意味だけでなく、音としても愛でる方です。初めて会って意気投合して、ふたりで何かやりたいねという話になって、音とことばの交換日記を始めました。

毎回、1冊の本を選んで、それにまつわる物語を私が書き、その物語を読んだケイタニーさんが作詞作曲をする。あるいはケイタニーさんが先に歌をつくってからそれを聞いた私がおはなしを書くという、ことばと音楽の交換日記を一年半ほど続けて、それを友人たちに協力してもらいながらCDBOOKとしてまとめたのが『わたしたちの聲音』です。

私の物語と朗読、そしてケイタニーラブさんの演奏した曲が入っています。ZINEの延長でつくらせてもらいましたが、すごく気に入っています。

連載「小説を書くということ」バックナンバー>>

温 又柔(おん ゆうじゅう)


おんゆうじゅう●1980年台湾生まれ。3歳のときに両親とともに東京に移り住む。2009年「好去好来歌」ですばる文学賞佳作を受賞。2011年に同作を収録した『来福の家』を刊行。『台湾生まれ 日本語育ち』で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。著書に『真ん中の子どもたち』『空港時光』『「国語」から旅立って』など。2020年10月末には明石書店より木村友祐さんとの往復書簡集『私とあなたのあいだ――いま、この国で生きるということ』が刊行予定。公式Twitter @WenYuju

【温 又柔さんの最新刊】

台湾と日本の間でそれぞれに痛みを抱える母娘を描いた長編小説。『魯肉飯のさえずり』(中央公論新社刊)
取材・構成・文/塚田恭子 撮影/大河内 禎 中島里小梨(静物)
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