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芥川賞作家 柴崎友香さんが信じ続ける“小説の可能性”。特別ロングインタビュー

2020.09.08

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〔柴崎友香さんの自選の3冊〕



のちに映画化された『きょうのできごと』以来、20年間、コンスタントに小説を書き続けてきた柴崎さん。“あまり数えたりしないんですけど、気がつけば20冊以上書いているんですよね。そのなかから、3冊選ぶとなると……”と、考えながら選んでいただいた、自選の3冊について。

『わたしがいなかった街で』(新潮文庫)


現代の東京に暮らす女性が、ある作家の戦時中の日記を読んで場所や記憶を重ね合わせていく話ですが、自分が生きているこの時代に他の場所で起きていること、自分が今いる場所で過去に起きたことと、自分はどう関わっているのか。そのことをどう考え、どのように小説として描くことができるか。自分がずっと書きたいと思っていたことをようやくかたちにできたのが、『わたしがいなかった街で』という作品です。


なぜ他ならぬこのわたしが、今、この場所にいるのか。それは普遍的な問いでもあります。小説では、普段、生活しているのとは別の方法で他者を想像し、実感することができます。そして小説のなかで可能なことは、現実でもいつか可能になるのではないかと、わたしはいつもそう思っています。

『パノララ』(講談社文庫)


『百年と一日』とは対照的に今まで書いたなかでいちばん長い小説です。時間について考えると同時に、家族や狭い集団のなかの人間関係、そのままならなさに焦点を当てています。今の社会はインターネットなどもあって、一見どこの誰とでも自由につながることができるようで、狭い人間関係のなかで起きる問題にからめとられているし、狭い関係のなかでは不均衡や圧力、精神的な暴力などが生じます。

『パノララ』で描かれる人間関係は、わかりやすいものではありません。登場する映画サークルでも、わかりやすく高圧的な先生が支配しているわけではないのに、参加者たちは中心人物に気に入られようと、互いに顔色をうかがい合うあまり、その場の圧力がどんどん高まっていく。そういうひとことでは説明しがたい関係性を伝えられるのも、小説にできることのひとつです。登場人物は、誰にでも好かれるよくできた人はいなくて、みんな少しずつ、いびつで困ったところがある人たちだけれど、彼らがそれぞれ自分の人生をどんなふうに歩いていけるか、書きながら考えていました。

『千の扉』(中央公論新社)


大きな団地のたくさんの扉の向こうに、それぞれの人生が詰まっている。『千の扉』は、直接出会うことはないかもしれない誰かの存在をどうやったら想像し、実感できるだろうと思って書いた小説です。長編と短編の違いはありますが、『百年と一日』に通じる部分もある作品だと思います。

モデルになった都心のマンモス団地は今は森のように木が茂っていますが、江戸時代は徳川家の庭園があり、その後、陸軍学校になってと、歴史的にも興味深い場所です。ただ、どんな場所も、丹念に見ていけば、歴史や社会の大きな流れと無縁ではないのでしょう。

連載「小説を書くということ」のバックナンバー>>

柴崎友香(しばさき ともか)


しばさきともか●1973年大阪生まれ。文芸誌に発表した「レッド、イエロー、オレンジ、オレンジ、ブルー」を収録した『きょうのできごと』で2000年にデビュー。07年『その街の今は』で、芸術選奨文部科学大臣新人賞、織田作之助賞大賞、咲くやこの花賞を受賞。10年『寝ても覚めても』で野間文芸新人賞、14年『春の庭』で芥川賞を受賞。近著に『千の扉』『公園へ行かないか? 火曜日に』『待ち遠しい』など著書多数。公式Twitter @ShibasakiTomoka

【柴崎友香さんの最新刊】

作家生活20周年の新境地。時間と人と場所を新しい感覚で描く物語集。『百年と一日』(筑摩書房刊)
取材・構成・文/塚田恭子 撮影/大河内 禎 中島里小梨(静物)
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