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茶箱あそび

涼やかなガラスの片口を使って冷水点を ふくいひろこ「京都発 茶箱あそび、つれづれ」7月

2020.07.17

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〔連載〕京都発 茶箱あそび、つれづれ 京都在住のふくいひろこさんが、ひと組の茶箱を通して、ときには京都の歳時や工芸を味わい、ときには茶を点てる場所を変えて、日常に抹茶を楽しむ具体例をお伝えします。一覧はこちら>>

7月
水のめぐみ、冷水点


京都には名水がたくさんあります。貴船神社、上賀茂神社、松尾大社など山から湧き出る郊外の名水から、地下水脈を通して街中にもたらされる梨木神社や下御霊神社、錦天満宮の湧き水などその名を挙げればきりがありません。

神社だけではなく、京都では豆腐・湯葉などの専門店、割烹などの料理店でも湧き水を使っているところがたくさんあります。神社の水はそのほとんどが自由に汲めるので、時折ご神水をいただいて、お茶を点てています。季節にかかわらず、しっかりと煮沸して使っていますが、夏場はそれをふたたび冷まし、冷水点(れいすいだて)にすることがあります。


冷水点用に今回あらたに組んだひと箱と八坂神社のご神水。

冷水点の魅力は、さわやかな甘み。水で点てた抹茶は、ひんやりと喉を潤すだけではなく、お茶がもつ甘みが強くなっています。テアニンという甘み成分は、通常抹茶を点てる湯よりも低温で攪拌するほうが溶け出しやすいとのこと。冷茶専用の抹茶も販売されていますが、わたしはふだん使っている抹茶を使います。

茶が内に秘めるさまざまな旨みを引き出すことによって、飲み慣れたはずのお茶の味わいが温度によって異なるのも、抹茶の面白いところです。

ガラスと銀器を中心に組んだ道具を並べて。

屋外であそぶ茶箱でも冷水点を楽しみます。美味しい水が手に入ると、お湯の代わりにボトルに詰め、茶箱と一緒に持ち出します。

その際、お湯も同様ですが、限られた水をいかに効率よく使うか腐心します。茶室や自宅の茶であれば、ふんだんに水が使えますが、外ではその量は限られており、水を無駄なく使う工夫が必要です。

抹茶を点てるだけではなく、道具類を清める水を確保するのは案外難しいものです。清浄さを保つことは茶の湯の基本ですから、いろいろと試していますが、最近はお茶を点てる器と、お茶を喫む器を、別々にすることで水を節約できると考え始めています。

一目惚れしたガラスの片口。

一碗で複数分の抹茶を点て、それぞれ小碗に注ぐ。茶道のお点前とは異なりますが、抹茶を短時間で呈するイベントなどではすでに行われているようです。

わたし自身はこれまでは時間がかかっても、たとえ茶箱の茶であろうとも、それぞれの相手にお薄を各服点てて差し上げたいと考えていました。

しかし、これまで以上に清潔さが求められ、時に時短をも迫られるご時勢。何か方法を考えねばと思いついたのが、茶箱の底に片口を潜ませることでした。夏場の冷水点用ならば、できればガラスがいいなあ、などと考えていると、知り合いのギャラリーのインスタグラムに、素敵なガラスの片口がアップされているではありませんか!

片口で点てた薄茶を各碗に注ぐ。

ガラスの片口をインスタグラムに投稿していたのは、堀川北大路の交差点近くにあるギャラリー「風土」さん。町家を改装した素敵な空間で、生活を彩る手仕事を紹介されています。

早速連絡をとり、駆けつけました。ふだんからわたしの茶箱活動を応援してくださっていることもあって、今回撮影場所としても使わせていただくことになりました。迷わず求めた片口をいったん持ち帰り、愛用の茶箱に合わせるとピタリと収まりました。空きスペースを確認しながら、片口に合わせてほかの道具を決めていきます。

呼応しつつも、道具同士のテイストが重ならないように。

涼やかさを器でも味わいたいので、ガラスと銀を基調にして道具を組むことに。テイストの異なるガラスを組み合わせて、茶杓や菓子皿などに銀器を取り混ぜます。

全部がガラスになっても面白くないので、茶碗は少し古い京焼の器を。縁に銀彩が施してあり、どこかモダンな感じも気に入っています。

ふだんからお茶に、コーヒーに、お酒にと、活躍している小碗です。茶筅を振るには小さいのですが、今回のように別の器でお茶を点てるなら問題なし。

銀の菊紋の小皿に京都の7月の銘菓「したたり」を。

菓子は銘菓「したたり」を。祇園祭の山鉾の一つ「菊水鉾(きくすいぼこ)」の茶席に用いる菓子で、7月の京都には欠かせない風物詩。菊水の井戸ゆかりの菓子でもあり、八坂神社の宮司さまが命名されたそうです。

今年の祇園祭は、疫災のため山鉾巡行や神輿の渡御が中止されていますが、神事は7月に入って粛々と執り行われています。本来、厄疫を祓うことがこの祭りの始まりですから、今年はひとしお胸のうちでこの祭りを想います。八坂神社のご神水をいただいてきて、したたりとともに一服。無病息災を祈りながら過ごす京都の夏の茶です。

・「ギャラリー風土」Instagram
@fudo.urata

ふくいひろこ

京都市生まれ。茶道周辺や京都関連本の編集者をつとめながら、自身の趣味として茶箱であそぶこと20余年。茶道具のみならず見立ての道具をふんだんに使い、日常で楽しむお茶を提案。道具を集めるのに飽き足らず、理想の茶箱道具を知り合いの作家や職人にオーダーするうちに、オリジナル茶箱の作品群が生まれ、時折展示会なども行っている。
●水円舎
ホームページ:https://suiensha.com
Instagram:@suiensha
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文・写真/ふくいひろこ
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