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芥川賞作家 絲山秋子さんに聞く、小説との向き合い方と自選の書3冊

2020.03.10

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〔絲山秋子さんの自選3冊〕


前編の冒頭でも記したように、テイストの違う作品を書くことを意図しているというように、次はどんな小説になるのか、毎回、ファンにとって新作が楽しみな絲山さんの作品。「本も相性だと思うので、読者の方々にも、そのときどきの自分に合った作品を見つけてもらえたら、嬉しいです」と話す作家が選んだ自選3作は。



『不愉快な本の続編』(新潮文庫)

今まで書いた小説のなかでいちばんというくらい、私はこの小説の主人公の乾が好きなんです。嘘つきで、そのうえ気難しいひとで、こちらから話しかけてもなかなか応えてくれなかったけれど、信用して待っていたら、ちゃんと大切なことを教えてくれました。

エピグラフで、カミュの『異邦人』を引いてはいますが、この本に関しては、ル・クレジオの『調書』の影響の方が強いのです。『調書』は精神病院から出てきたのか、軍隊から出てきたのかわからない男が主人公です。乾もフランスから帰ってきたのか刑務所から出てきたかわからない設定です。実家を燃やしてしまうとか、衝動的で得体の知れないところもあって、今でも意味がよくわかっていないところもあります。後になって気づくことも含めて、自分にとって転機になった作品です。

『忘れられたワルツ』(河出文庫)
『忘れられたワルツ』は、一つひとつの作品の完成度を極限まで上げたいと考えながら書いた短編集です。たとえば美術品でも、大きな彫刻もあれば、宝石のような精密なものもありますが、この小説は本当に細かい細工にこだわって仕上げた作品で、その意味で、愛着があります。

『夢も見ずに眠った。』(河出書房新社)
完成度を上げることに力を入れていた『忘れられたワルツ』や『妻の超然』などとはだいぶ違う方法で、大きな筆で勢いや材質の柔らかさを生かすように書き上げたのが、この小説です。ようやく小説との適度な距離を保てるようになったのかもしれません。小説から、登場人物との距離感や、新たな付き合い方を教えられた気がします。

絲山秋子(いとやま あきこ)


1966年東京都生まれ。大学卒業後、住宅設備機器メーカーに入社、営業職として国内各地に赴任する。2003年『イッツ・オンリー・トーク』で文學界新人賞、04年『袋小路の男』で川端康成文学賞、05年『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、06年『沖で待つ』で芥川賞、16年『薄情』で谷崎潤一郎賞を受賞。公式サイトhttp://akiko-itoyama.jp/ 公式Twitter@akikoitoyama

【絲山秋子さんの最新刊】




どこの会社にもいる“チャラ男”の存在をとおし、会社という組織の不思議さや理不尽さを、笑うに笑えぬリアルさで描く。 『御社のチャラ男』(講談社刊)
取材・構成・文/塚田恭子 撮影/大河内 禎(人物) 中島里小梨(静物)
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