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直木賞作家・白石一文さんの“僕らしくない”自選の3冊

2020.02.25

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〔白石一文さんの自選3冊〕


小説はもちろん、若いときから大半の哲学書を読んでこられた白石さん。『君がいないと小説は書けない』のなかでも、主人公の小説家が“時間とは距離に過ぎない”と語るように、作中人物が思惟的であることも、白石さんの作品の特徴のひとつといえるだろう。だが、今回、自選3冊として挙げていただいたのはご自身いわく“僕のいわゆる理屈っぽいところを書かなかった、僕らしくない3冊”とのこと。その心は。



『快挙』(新潮文庫)

『一億円のさようなら』(徳間書店)
『もしも、私があなただったら』(文春文庫)


この3冊は、夫婦とか、大人の愛情を描いた作品です。僕には、自分は小説みたいな変な呪いにかかって、ちゃんと生きることができなかった、つまらない人生を送っているなあというくやしさがあるんです。でも、たくさんの本を読まなきゃいけなかったし、ほかのことをしている時間は全然なかった。趣味のひとつもないし、しょうもない人生だけど、そういう自分のなかの恨みつらみみたいなものが溜まってくると、それをハートウォーミングなかたちにしたくなるみたいで……。

自分でいうのも何ですけど、この3冊は肩の力が抜けていて、素の僕が出ている気がするし、読後感ならぬ書き上げ感がよかった作品です。もうひとつ、3冊に共通するのは、いずれもやっかいな小説を執筆中、その合間に書いていることです。

僕の小説はほとんど書き下ろしで、ひとつの作品に集中しているんですけれど、1000枚の小説を書いていると、途中で転調したり、客観的に見つめるための時間が必要になります。パン生地を寝かせるように。そういう間を置く期間に、ある種、リハビリのように別の小説を書くと案外いいものが書けるのかもしれません。僕自身は家庭を壊してしまったし、もはや何をしても取り返しのつかないことをしてしまっているんですけどね。

白石一文(しらいし かずふみ)


1958年福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、文藝春秋勤務を経て、2000年に『一瞬の光』でデビュー。2009年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞を、2010年『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞。近作に『記憶の渚にて』『一億円のさようなら』『プラスチックの祈り』など、著書多数。最新刊は、北澤平祐さんとの共著の絵本『こはるとちはる』。公式Twitter @kaz_shiraishi

小説を書くことにだけ、存在意義を持ち続ける作家の気持ちが率直に反映された自伝的小説 『君がいないと小説は書けない』白石一文著(新潮社刊
取材・構成・文/塚田恭子 撮影/大河内 禎(人物) 中島里小梨(静物)
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