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マリー・アントワネットが愛した“王妃の村里”を守る人々

2020.01.15

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国家が一丸となって守り続けるフランスの伝統的な手仕事


ゴンドラ型

王妃の館の休憩部屋に置かれた「ゴンドラ型」というスタイルの椅子。マリー・ルイーズ時代から置かれていたオリジナルで、状態がよかったため、張り地も当時のものを使用し修復された。

文/石澤季里

王妃の館に留められた、マリー・アントワネットの想い


17世紀後半、ルイ14世が建てた荘厳かつ華麗なヴェルサイユ宮殿は、王が財務大臣コルベールとともに設立した、王立工房の芸術作品を展示する巨大なショールームの役割も果たしていました。

ラファエロやルーベンスといった巨匠の下絵をもとに、何年もかけて作られるタペストリーは、当時、レオナルド・ダ ヴィンチの絵画よりも高価だったそうです。

また、王の家具職人、A.C.ブールが編み出した鼈甲と銅板の象嵌技術で彩られた黒檀の家具は、ヴェルサイユをひと目見るためにはるばるやってきた国内外の王侯貴族の垂涎の的でした。

この時代に誕生した「世界の高級品はフランスで作られる」という伝説は、100年後のマリー・アントワネットの時代にまで続きます。

王妃は自らファッションドール「パンドラ」の役目を担い、職人の庇護と国の経済を活性化させるために王立工房の手仕事をさりげなくアピールしました。

こうして「メイド・イン・フランス」旋風が巻き起こり、フランスの名工の想像力とセンス、技の結晶である手仕事は不動のものになりました。

「パスマントリー」の伝統技術。

クッションの角に同じ生地で作った花の飾りを縫いつける「パスマントリー」の伝統技術。釣針のような形の針も使用し、丁寧に手縫いする。タピスリー工房にて。

太陽王ルイ14世が没して300年が経つ今も、フランス人は伝統工芸とその技術が国の至宝であることを忘れていません。

1994年、文化・情報伝達省のもとに誕生した無形文化財「メートル・ダール」制度は、日本の「人間国宝」に倣い、熟練の技やノウハウの希少性、工芸分野の革新へ貢献した最高技術者に授与される最も権威ある称号としてユネスコの文化遺産に登録されています。

着目すべきはこうした動きがお役人の手だけに委ねられていないことです。テレビをつければ日常的にアルチザンの仕事ぶりが特集され、雑誌をめくれば「メティエ・ダール」(フランス語で芸術的手仕事の意)の美しい作品が目に飛び込んできます。

また、フランスを代表する、数々の高級ブランドは、廃れつつある伝統工芸のアトリエを傘下に収め、その人材育成に多額な費用を投じ、フランスの文化と伝統を守り続けています。

マリー・アントワネットがプチ・トリアノンの庭に造った「王妃の村里(ル・アモー・ドゥ・ラ・レーヌ)」もまた、ディオールのメセナによって甦った歴史的記念物です。

革命で破滅的な被害を受けたアモーは、1811年、マリー・ルイーズ皇后の夏の離宮として建て替えられた際、インテリアをアトリビュート(神話と結びついた神の持ち物)のひとつに役立てたナポレオン一世によって、前時代の影響を受けながらも、より派手に華やかに一新されました。

革命の杞憂さえ吹き飛ばす、明るく贅沢なアモー。スタイルは変わっても、その随所には手仕事の逸品を愛し、その発展に進したマリー・アントワネットの想いが留められています。

石澤季里さん(ジャーナリスト)
大学在学中に記者活動を開始。1990年からパリで暮らし、アンティーク鑑定士養成学校IESAを卒業。東京とパリを行き来しながらジャーナリストとして活動する傍ら、カルチャーサロン「プチ・セナクル」を運営し、マナーからヨーロッパの美術様式まで学びの場を提供。近著は『フランス手仕事、名品の物語 マリー・アントワネットが愛した職人技』(大修館書店)。
http://www.antiqueeducation.com/

Le Hameau de la Reine/ル・アモー・ドゥ・ラ・レーヌ(王妃の村里)

週1〜2回の不定期のガイドツアー(フランス語)にて王妃の館の内部の見学が可能(ヴェルサイユ宮殿のウェブサイトにて要予約)。

ツアー参加料:10ユーロ(別途ヴェルサイユ宮殿のパスポートが必要)王妃の村里はヴェルサイユ宮殿のパスポート(20ユーロ〜)、トリアノン領有地チケット(12ユーロ〜)などで散策可能。ヴェルサイユ宮殿では、2019年4月に宮殿の「女王の寝室」の修復がすべて終了し、再公開されている。

宮殿内に新設された常設展示スペースでは、ルイ15世妃『マリー・レクザンスカ』展を開催中。
http://www.chateauversailles.fr
撮影/小野祐次 コーディネート/大島 泉 構成・文/安藤菜穂子

『家庭画報』2020年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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