リッカルド・ムーティ氏に特別インタビュー！巨匠が語る「音楽の力」とは？

マエストロ・ムーティに学んだ指揮受講生・沖澤のどかさんインタビュー
「音には“色”がある。一つの音でも異なるドラマを表現できる。巨匠から学びました」

沖澤のどか（おきさわ・のどか）さん
1987年青森県生まれ。東京藝術大学指揮科を首席で卒業。同大学院修士課程修了。ハンス・アイスラー音楽大学ベルリンに在学中。第18回東京国際音楽コンクール「指揮」１位。東京都交響楽団を指揮してデビュー。今年９月、小澤征爾氏や佐渡 裕氏もかつて優勝した若手の登竜門、ブザンソン国際指揮者コンクールで見事優勝を果たす。

明るい、暗い……音が持つ“色”へのこだわりを学ぶ

マエストロ・ムーティと８日間同じ空間にいて、その場の空気を支配しているような圧倒的な存在感に驚きました。そして、妥協のないお仕事ぶりとお茶目な部分とのギャップにも（笑）。時に情熱的に、時に厳しく、一言一言に全く迷いがなく説得力に溢れ、その教えようという情熱に感動しました。

マエストロの“Teatro（テアトロ＝イタリア語で劇場）”というひと言で、ヴェルディに対する見方が変わりました。劇やドラマという視点で楽譜を読み始めると、それまで単純に見えていた和声やリズム音型がものすごく生き生きとしてくるのです。



Teatro! テアトロ！ ここは劇場なんだ！ この曲はドラマなんだ！
音色やハーモニーの変化、転調などが、登場人物のどのような心理の動きを意味しているのか、そのドラマ性を音で表現してほしいというアドバイス。名だたる大劇場で数々のオペラを指揮してきたマエストロならではの言葉です。このひと言で心理描写が掘り下げられ、より心に響く音に変わりました。沖澤さんに「あなたはとても才能がありますね。自分らしく指揮なさい」と励ますマエストロ。東京藝術大学で行われた公開リハーサルにて。

また間の取り方や強弱もドラマの背景によって全く異なることを学びました。マエストロは音色（おんしょく）のこだわりも強く、暗いp（ピアノ）や、sotto voce（小声でささやくように）のpなど多彩です。

正しい音程を聴き取れる自信はありましたが、音色を聴き分けたり、音色を自分のイメージに近づけるという意味での耳の使い方を学びました。

音色が微妙に変わるだけで、曲の持つドラマ性が高まり、聴く人の心に強く訴えるのではないかと思います。“テアトロ”という教えはオペラ以外でも意識するようになりましたね。

指揮台でも自分らしく自然に。巨匠が後押ししてくれた

アカデミーの期間中、女性で、若い指揮者という立場で指揮台に立つ難しさをマエストロに打ち明けたことがありました。すると“Be yourself！（あなたらしく）”とおっしゃってくださいました。

実は指揮者になった当初は見た目を凜々しくしようと努めていたこともありましたが、結局無理をしてしまうので、自然にしているのがよいと気づき、それをマエストロに後押ししていただいた気がします。変に媚びず、まっすぐ伝えることを今後も心がけていこうと思いました。

決して指揮者に向いた性格ではないのですが、指揮は人生をかけてやる価値のあることだと思っています。アカデミーへの参加やコンクールの成績などで周囲からは一見結果が出ているように見えるかもしれませんが、自分にとってはまだまだ一定のペースで進んでいますし、これからも方向性を決めすぎずに続けていきたいです。

マエストロは常に新しい楽譜を研究されていて、考え方も新しい。巨匠と呼ばれてもなお進化し続けているその姿勢を見習いたいです。



マエストロの指示を総譜に書き込んでいた沖澤さん。｢特にオペラの場合、単語一つ一つの意味も辞書で調べ頭に入れてリハーサルに臨みます」。