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氷上で髙橋大輔さんが立廻り、染五郎さんが宙乗りを! 氷上エンターテインメント「氷艶 2017 破沙羅」

2017.05.24

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そして、公演途中から胸に沸々と湧いてきたのは「演出家としての染五郎さんの力量と熱量が半端なくすごい」という想いでした。アイスリンクの広さや空中、氷面を存分にいかした演出、スピーディーに動き回れるスケーターたちの特性を随所に盛り込んで見せる迫力ある殺陣や踊りのシーン、2015年にラスベガスのホテル、ベラージオにて行われた染五郎さん主演の歌舞伎公演でも映像効果を担当したチームラボがプロジェクション演出で作り上げた幻想的な世界。リンクの氷面が、揺れる水面や火祭り、お花畑に見えたのは初めての経験でした。そして、異空間へと誘う和太鼓集団、DRUM TAOの迫力ある演奏や、この公演のために制作され、物語を紐解く鍵となる歌詞が散りばめられた楽曲の数々。衣裳やヘアメイクも含め、そのすべてが染五郎さんの発想力、演出力がもとになっているといいます。 

キャスティングもまた絶妙! 「陰」のキャラクター、岩長姫を演じる市川笑也さんの頑張りは本当に拍手ものだと思います。岩長姫や染五郎さん演じる仁木弾正が、髙橋さん演じる義経をこれでもか、といたぶるシーンが何度か織り込まれているのですが、これがなかなか真に迫っていて、「染五郎さんの演出、ファン心理を読み切っているなあ」と思わず、にやりとさせられました。 

それにしても、笑也さんが着ている衣裳の重そうなこと。学生時代にアイスホッケーをやっていたとはいえ、あんなに重い衣裳を着て、スケート靴を履いてずっと滑っているだけで本当にあっぱれです。歌舞伎界からは澤村宗之助さん、大谷廣太郎さん、中村亀鶴さん、スケート界からは織田信成さん、鈴木明子さん、村上佳菜子さん、浅田 舞さん、佐々木彰生さん、大島 淳さんなど芸達者な方々がキャスティングされ、各場面を盛り上げていました。ハイスピードでリンクを疾走するスケーターに目を奪われるかと思えば、特注スパイクシューズで氷上を縦横無尽に動き回る歌舞伎役者の見せ場もあり。テンポよく進む物語と、緩急つけた見どころ満載の演出でまばたきをする暇もありません。 


そして、やはり圧巻だったのは悪役の要として登場した染五郎さん。いくらドラマでアイスホッケー部員の役を演じた経験があるといっても、かれこれ13年以上も前のこと。それなのに、スケート靴を履いて滑りながら演技を見せるだけではなく、第二幕第五場では天井での宙乗り前後回転技まで披露! 観客を楽しませたい、見応えのあるショーにしたいという演出家としての責任感と覚悟が伝わってきて、思わず泣けました。髙橋さん、染五郎さんを始め、出演者の皆さんそれぞれが忙しい方々ばかり。夜中から朝方までスケートの練習をして、翌日は歌舞伎の舞台や、テレビの収録へ向かうなど、ギリギリまで最大限の努力をして公演日を迎えたそうです。 

今までにない氷上エンターテインメントとして、アイスショー拡大版の一面も持っていますが、引抜と呼ばれる早替わりや激しい立廻り、見得、毛振り、鳴物、小道具などを惜しげもなく盛り込んださま は新作歌舞伎を見ているようでもありました。 

歌舞伎通の方から見たら、本物の歌舞伎の舞台にはもっとすごい仕掛けや見せ場があるという声も出るかもしれません。でも、これは「美しさにこだわる」共通コンセプトを持つ歌舞伎とフィギュアスケートの融合エンターテインメントという、前代未聞、世界初の試みです。細かいことは回数を重ねて、経験値を積んでいけば改善していけるはず。恐らくこのレビューがアップされる頃にはもう公演は終了しているかと思いますが、見逃してしまい、残念に思われている方もたくさんいらっしゃることでしょう。一回きりで終らせるにはあまりにもったいない。日本が世界に誇る歌舞伎とフィギュアスケートが組んだら最強です。海外公演をしても、絶賛されるのではないかと思いました。出演者のスケジュールを確保するのは大変そうですが……。 

一般の人からしたら、それは無理なんじゃない?無謀なのでは?と思われることを思いつくのが天才です。この壮大な演出に取り組んだ染五郎さんの勇気、それに共鳴して想像以上のパフォーマンスを見せてくれた髙橋さん、荒川さん始め、天才たちの才能がぶつかりあうさまを目撃できたことは本当に衝撃であり、幸せでした。歌舞伎の奥深さも、フィギュアスケートのエンターテインメント力も改めて実感できた本公演。何よりも、今後さまざまな可能性につながる革新的、奇跡のエンターテインメントの扉が開かれた期待感で一杯です 。髙橋さんの三味線に合わせた踊りのシーン、氷上での染五郎さんとの殺陣対決に心奪われてしまった皆さんには来月のダンス舞台が待っています! どんな進化を見せてくれるか、楽しみですね。 

「氷艶 2017 破沙羅」公式サイト URL:http://hyoen.jp/ 

小松庸子/Yoko Komatsu

フリー編集者・ライター
世界文化社在籍時は「家庭画報」副編集長としてフィギュアスケート特集を担当。 フリー転身後も「家庭画報」誌面にてライフワークとして大会やアイスショーなどを取材。
取材・文/小松庸子
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