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大原千鶴の心に残るレシピ「鰺の笹巻き寿司」

2019.05.14

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私の心に残る味 5月

鯵の笹巻き寿司

鰺(あじ)の笹巻き寿司
ピンとはった新鮮な鰺を酢締めにして、香りもご馳走の笹巻き寿司にしました。雪の中でも枯れずに緑を保つクマザサ。その強い生命力が、私には新緑の季節の象徴に思えます。さわやかな香りをお寿司に巻いていただきましょう。詳しいレシピは次ページ>>

鰺の笹巻き寿司


料理・文/大原千鶴


私が育った実家のある京都、花脊の地域は昔からクマザサの産地で有名な場所です。京都市内のお菓子屋さんや、祇園祭の厄除けちまきにも使われておりましたが、近年は鹿の獣害で随分とクマザサが減ったように聞いています。

それこそ昔は収穫したクマザサを束ねて天日でカラカラに干しているのをあちこちで見かけました。干したものをまた水につけて戻して茹でて使います。そのままの笹の葉と違い、しっとりとやわらかくなって香りが立ち、緑の色も深く美しいものに変わってきます。

山を歩いている時、風が吹くとクマザサがあちこちで揺れて、サラサラと音を立てるのを聞くのが好きでした。その様はまるで風の姿が見えるようで、山歩きの大きな楽しみでもありましたが、その葉っぱの固いことといったら。

クマザサの藪に入って素肌に葉が触れると、それだけであちこち傷がつき、「痛くてかなわんなぁ」と思っていました。そんな強面の笹も干して戻して茹でるうちにしんなりと柔らかく、まるで上品な貴婦人のようになるから面白いものです。

クマザサは、いつも水につけていないとすぐ乾いてしまうのでなかなか手間なもの。ですが、笹の持つあの清々しい香りは何にも替えられないものですし、笹巻きのお寿司やお菓子をいただく時の、あの高揚感は私たちをとても幸せな気持ちにさせてくれると思います。

今回はそんな笹で鰺のお寿司を巻いてみました。正式なちまきの巻き方ではなく、簡単に三角にするだけのもの。これだけでいつもの鰺のお寿司が特別なものになりますし、時には家族にもこんな嬉しいサプライズをもって、日本の文化の美しさを感じてもらえればと思います。

竹や笹は日本料理に清々しさを添えてくれます。時々プラスチックの代用品を使ったものを目にしますが、それを見ると少し残念な気持ちになります。手間がかかって、保存が大変で、使うとすぐカラカラになるからこそ、その一瞬の香りや色合いに潔さを感じるのかもしれませんね。
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