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歌人の思考回路。九螺ささらさん、短歌で哲学するとはどういうことでしょうか?(前編)

2019.04.16

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ことばの世界――詩歌のほうへ 第7回 九螺ささらさん(歌人)

「ことばの世界」 ハードルが高い、入り口がつかめない……そんな印象を持たれがちな詩歌というジャンル。けれど、単純には割り切れない感情や思いをつかむ詩人、歌人のことばは、読者を遠くへと誘う力を秘めています。彼らは世界をどうとらえているのか。その作品と肉声を通じて、詩歌の魅力に迫ります。


目次を開くとずらりと並ぶ84のテーマ(キーワード)。それぞれのテーマで詠まれた短歌のあとには思索的、自己解説的なコラムが続き、そして再び短歌を通じて、新たな視点が提示される。短歌・散文・短歌という今までにない構成と、短歌で哲学するという斬新なコンセプトで話題となったデビュー作『神様の住所』で、第28回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞した九螺ささらさん。

2009年春から独学で短歌をつくり始め、2010年に短歌研究新人賞次席となった九螺さんは、2014年1月からご自身曰く“訓練として”新聞歌壇などへの投稿を開始し、多くの媒体で歌を取られるようになる。2018年6月の『神様の住所』刊行から時を置かず、第1歌集『ゆめのほとり鳥』を上梓し、現在はデジタル文芸誌で連載しているように、ジャンルを越えた作品への注目度は高い。


九螺さんの短歌や散文を読んでいて感じるのは、世間では一般常識や社会通念として不問にされていても、自身が疑問や違和感を覚えたことは決してそのままにせず、その言語感覚をフル活用して、世界の再構成、再定義を試みようとする強い意思だ。まるで求道者のように、宇宙とは、存在とは何かを考え、言語化しようとするその姿勢から、スーパーことば派などと呼ばれている。

そんな九螺さんがどのように『神様の住所』を書かれたのか。その執筆スタイルから、物書きとして踏み出すまでの修業の道のり、独学を選んだ理由、書くことへのただならぬ覚悟まで、話は広がった。

 

さびしくて一個は二個になりましたそして細胞は孤独を失う

さびしいから神様が独りくしゃみしたそれがビッグバン有の始まり

<2 さびしいから>

 

<体積がこの世と等しいものが神>夢の中の本のあとがき

NとN、SとSのくっつかなさをこの世の極みの手応えと思う

<10 哲学>

 

脳内で上映されている夢あり脳の持ち主は眠ったまま

夢の中に影がなかった発見を夢の外でしか会えぬ人に言う

<38 夢>

 

目と耳と口失ひし王様が「聖」といふ字になった物語

一文字も読まれず置かれた聖なる書聖書は置き薬箱の隣り

<83 聖書>

(『神様の住所』より)



『神様の住所』(朝日出版社)。

――『神様の住所』、九螺さんの脳内をのぞいているような気持ちで読ませてもらいました。

2014年1月から、訓練のつもりで新聞歌壇への投稿を始めました。短歌は短歌の世界だけで自給自足、循環しているように感じていて、けれど私としては、もっと幅広く読んでほしい気持ちがあったんです。この年の2月に、穂村 弘さんが日経歌壇で「<体積がこの世と等しいものが神>夢の中の本のあとがき」という歌を取ってくださったのですが、この歌をツイートしてくれたのが、『神様の住所』の編集者の綾女さんでした。この歌は、まさに私の核心にあるものだったので、これが通じる人なら大丈夫だろうと、今まで自分ひとりでおもしろいと思っていたものを、それ以降、綾女さんにどんどん送り始めました。夏目漱石の『夢十夜』じゃないけれど、ベッドの横にガラケーを置いて、夢のなかでも何かを思いつくと起きて、ガラケーでそれを打って。

――短歌・散文・短歌というのは、今までにない構成ですよね。

ただの歌集ではおもしろくない、じゃあどうしようかとふたりで話しているとき、短歌でコラムをはさむというかたち、リズムを思いついたんです。それが2016年12月26日のことでした。一度寝てしまうと、鮮度が変わってしまうので、家に帰る東海道線のグリーン車内ですぐに書き始めたのですが、最初は自分の思い入れが強すぎたり、昭和感たっぷりなものを延々と書いていたので、そういう話は(読み手が)置いていかれる感じがするのでやめましょうかといわれて……。



――当初は散文がもっと長かったのですか。

コラムの長さが一定でなかったので、その辺りも矯正してもらいましたし、テーマもバラエティに富んでいるほうがおもしろいとアドバイスされて、「ゲシュタルト崩壊」や「黒柳徹子」を入れたりして、だんだん今、本に収めている感じで書けるようになっていきました。本の発売日は6月11日だったのですが、これも綾女さんが、私が素数好きなことを知っていて、「11」を選んでくれたようです。

――コラムの文章も、ことばを反復するなど、たたみかけるような強さがあります。

私は1行目でいい切りたい、文章をいい切らない煮え切らなさがいやなんです。事実関係が重要な学術論文や新聞の記事や社説などの場合、いい切ると危険があるから防御線を張るのでしょうけれど、私は思ったことを書いているし、文を書いた人間として責任を負うつもりもあります。清水ミチコさんや室井滋さん、群ようこさんも、1行目でいい切りますよね、そのほうがおもしろいと私は思うし、いい切って、“あの人バカじゃない”といわれても、そのことばを自分が被る覚悟はできています。

――1行ごとに改行し、スペースを設けるのは、力のある文章だからできる文字組だと思いました。

短歌界の人からも、散文に改行が多いことについていわれましたけど、ガラケーからPCに文章を送ると、改行も文字組も変わってしまうので、見た目の感じを含めて、その辺りはすべて編集のセンスにお任せしました。たしかに内容のない文章をどんどん改行するのはどうかと思いますが、私は頭からしっぽまで餡が詰まっているたい焼き、というイメージで書いていました。
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