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作家・堀江敏幸さんが語る、 随想集『傍らにいた人』のこと

2019.02.19

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――堀江さんが取り上げるのは、小説か随筆か詩か、その境界が曖昧な作品が多いと感じました。

作品の味わいはジャンルに関係ないと思っていますし、もともとはざまにあるものが好きなんです。境界の曖昧さと言えば、今回はとくに、実在の作家を、つまり書き手自身を小説の登場人物のように扱っている。作家と作中人物の境界もぼやけています。

――もうひとつ、堀江さんは作家や作中人物と、とても近くにいるということも、読んでいて感じたことです。


このことばはあの本にあったな、そのことばを発したのは、たしかあの人だったな……という順序で思い出すのですが、ことばも人も、記憶のなかでは同列なんです。先ほどお話した、漠然とした影ですね。それが登場人物になったり、その人が発したことばになったり、作家の感慨になったりする。書き出す直前まで、前の回で浮かんだイメージを探り続けて、気が付くとデッドラインまで数時間ということもありました。

――かなりスリリングですね。

胃が痛かったです(笑)。掲載は毎週土曜日の朝刊で、前日の16時頃までなら手を入れることができます。ところが金曜日の午後は、授業がある。直しはファクスでは間にあわないので、授業と授業のあいだに研究室に戻って、そこから写メを送ったこともあります。近代の作品が多かったので、年齢は数えですし、町名なども区画整理や合併で当時とは変わっている。細部のチェックが大変でした。

――この本を書いたことで、作家や作中人物と近くなったという感じはあるのでしょうか。

そうですね。本のなかの人物は生きています。本がある限り、彼らが消えることはありません。頁を開けばいつでも会うことができます。10年後に再会しても、10歳年を取っているということはない。年を重ねて、身体的な衰えが進むのは、読者であるこちらだけです。しかし、一度出会っている人たちですから、かつて抱いた感情と現在の思いを、比較できるんです。昔会った人が、今の自分にどう映るか。それが自分には重要なことなんです。基本は再会で、なかには3度、4度会っている人もいます。亡くなった作家しか取り上げていないのは、完結した世界の住人のほうが、回路を作りやすい気がしたからです。玄関がどこにあるのか、もうわかっているわけですからね。ところが中に入ってみると、なにもかも新しい。懐かしさよりも新しさが勝ります。こちらが変わったという証拠でしょう。

――本のなかで、長谷川四郎から石原吉郎、北條民雄、川端康成、梶井基次郎という辺りは、濃いつながりを感じる流れでした。

梶井基次郎の『檸檬』は3回にわたって書いています。扱う回数が増えると、必然的につながりは濃くなりますね。最初から15枚の原稿として書くのと、3週にわたって5枚ずつ書くのとでは、感触がまったく違う。また、単行本にする前、同一テーマで、2回、3回とつづいたものをひとつにまとめて組んでみたのですが、リズムが崩れるというより、別物になってしまう気がして、連載時のままにしていただきました。



梶井基次郎『檸檬』(「檸檬」を収録)/新潮文庫

――原稿を書きためることはなかったのでしょうか。

それができたらどんなに楽だったかと思いますけど(笑)。企画を通すために、最初の2回くらい書いたでしょうか。あとはもう自転車なんとかで……。

――でも、その危機感が文章に色を落としていないのがすごいなと思います。

外からは、ゆったり書いているように見えるらしいのですが、実際は火の車の状態です。授業のあと、会議の前に、手もとにある紙に書く。ノートの切れ端や議事録の裏に書いたこともあります。原稿用紙はやはり便利ですね。だいたい1回分になったかところでパソコンに打ち直し、字数調整をしていました。
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