いつかロイヤルオペラハウスへ──新国立劇場バレエ団の舞踊芸術監督、吉田 都さんの想い

〔特集〕新国立劇場バレエ団、英国への挑戦　吉田都の『ジゼル』、世界へ　2025年7月。ロンドンの英国ロイヤルオペラハウスで『ジゼル』を踊ったのは、新国立劇場バレエ団。率いるのは、吉田 都さんです。５年前、新国立劇場バレエ団の芸術監督に就任した際、自身が活躍した “ロイヤル” のステージにダンサーを連れていきたい、と夢を抱いた吉田さん。それが形となりました。バレエ好きのロンドンっ子を沸かせた公演を追いました。前回の記事はこちら＞＞

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いつかロイヤルへ ──。
吉田 都さんの想いとは

2025年7月のロンドン公演直前。吉田芸術監督にその意気込みを伺いました。
──取材・阿部さや子 （WEBメディア「バレエチャンネル」編集長）

“ロイヤルバレエ” のプリンシパルとして約15年間踊り続けた “古巣” に、新国立劇場バレエ団の芸術監督として戻ってきた吉田 都さん。「ここは私にとって苦しいことも多かった場所。でも今回、劇場関係者や批評家の皆さんが本当に温かく迎え入れてくださり、嬉しさと感謝の気持ちでいっぱいです」。©Foteini Christofilopoulou

「本場の空気を、全身で感じてほしい」── 吉田 都さん

ダンサーたちをロイヤルオペラハウスの舞台に立たせたい ── 2020年に芸術監督に就任して以来ずっと願い続けてきた夢が、叶う時がきました。

上演する『ジゼル』は、第１幕は農村を舞台にした愛と裏切りの人間ドラマ、第２幕は精霊たちの幻想的な世界を描く作品です。私たちの目指す「ストーリーの伝わる演技」が、“演劇の国” 英国のお客様に通用するかどうか。それが試される大きな挑戦であると同時に、第２幕では新国立劇場バレエ団の強みであるコール・ド・バレエ（群舞）の美しさをお見せしたいと考えて、この演目を選びました。

第2幕。ふわりと浮かぶように踊るウィリたち。新国立劇場バレエ団が得意とする一糸乱れぬコール･ド･バレエの美しさ、複雑なフォーメーションは目の肥えた英国のバレエファンも魅了。©Rachel Holilings

『ジゼル』には、私のバレエ人生も詰まっています。初めてジゼル役を踊ったのは20代前半。まだ若くて回転などの技術を見せる踊りが好きだった私は、この役にずいぶん苦しみました。なぜなら、ジゼルに求められるのは 「物語を伝えること」だったから。物語を伝えるとは、役を演じるとはどういうことなのかを真に理解して、自分の表現を見つけるまでに、20年くらいかかったでしょうか。困難な道のりでしたけれど、ジゼルは私に演じることの楽しさを教えてくれました。

ダンサーたちをロイヤルオペラハウスに連れて行きたいと思ったのは、そこに立たなければわからないことがあるからです。例えば劇場のエネルギー。それは油断すれば煽（あお）られて倒れそうになるほど圧倒的で、ダンサーは地に足をつけて立ち、ぐっと押し返す強さを持たなくてはいけません。

また、英国のお客様はリアクションが率直で、こちらの演技次第で反応がまるで変わります。そうした客席とのキャッチボールも、ぜひ体感してほしいと思っています。

ダンサーたちを信じる ―― 芸術監督の私にできることはそれだけです。開演のベルが鳴り、幕が上がったら、もうダンサーたちに任せるしかないのです。でもここまでの5年間、彼らと一緒に積み重ねてきたものがありますから、心配はしていません。「舞台を楽しんできてね」。そう言って、みんなを送り出したいと思います。

初日公演のカーテンコール。ダンサーたちへの万雷の拍手がひとしきり続いた後、吉田 都芸術監督が舞台上に登場。現役時代、英国の観客に「ロイヤルの至宝」と称され、愛されたミヤコ・ヨシダ。彼女の嬉しそうな笑顔と、現役時代から変わらない慎ましやかなレヴェランス（お辞儀）に、満場の観客からいっそう大きな喝采が沸き起こった。©Foteini Christofilopoulou

吉田 都さん（よしだ・みやこ）
9歳でバレエを始め、1983年ローザンヌ国際バレエコンクールでローザンヌ賞受賞。1984年、現バーミンガム·ロイヤルバレエへ入団。1995年に英国ロイヤルバレエへプリンシパルとして移籍、2010年に退団するまで長きにわたり最高位プリンシパルを務める。紫綬褒章並びに大英帝国勲章（OBE）ほか受賞多数。2020/2021シーズンより新国立劇場バレエ団の舞踊芸術監督に就任。後進の育成に尽力している。

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