〔特集〕誌上でゆっくり学ぶ・愛でる 京都の“別格” 京都では合わせて17の寺社が世界遺産に登録されていますが、平安遷都にあたり大きな意味を持った構成資産が2か所あります。桓武天皇が遷都の成功を祈願した京都最古の下鴨神社と新しい都を守るために作られ、平安京造営の起点となった東寺です。千年の都では、世界遺産以外にも名所・名刹は数しれず ── 深淵なる京都の別格を訪ね、日本の真髄(こころ)を学びます。
前回の記事はこちら>>・
特集「京都の別格」の記事一覧はこちら>>>
知られざる舞台裏
“京都の美を守る”人たち
人に深い感動を与える美しさを、陰で支え、守る人たちがいます。
未来の日本人の美意識のために ──
日本の美を次世代へ継承することの尊さを千年の古都に学びます。
浄土宗開宗850年に寄せた大改修
知恩院[公務員大工・技師の仕事]
浄土宗の総本山知恩院。境内の山中にひっそりと佇む勢至堂は、開祖である法然上人がその生涯を閉じた禅房の故地であり、知恩院最古の建物です。
勢至堂改修工事が始まる前の勢至堂。
1530年に建てられて以降、幾度となく修理を繰り返してきましたが、柱の傾斜や床の不陸(ふろく)、屋根瓦の破損などが顕著なことから、現在およそ110年ぶりとなる大改修が行われています。
工事に携わるのは、京都府教育庁文化財保護課に在籍する職員。全国でも珍しい「公務員大工」「公務員技師(文化財修理技術者)」の方々です。
瓦下ろし作業中の屋根の横にて。執事の前田昌信さんと、その向かって右に稲田さんが、左後ろに原さんが立つ。
「現代の技術に加え、伝統工法の知識を学ぶ必要もある」と話すのは大工の一人、原永治さん。過去には清水寺や仁和寺の工事も担当されたそう。
一つのお堂の修理にかかる期間はおよそ5~7年。一本一本部材を丁寧に解体し、傷んだ部分だけを修理したうえで、建物の不陸などを修理した後、再び組み上げます。
また技師は歴史資料の調査はもちろん、釘穴や部材の接続痕からも過去の改修内容を調査し、謎に包まれた勢至堂の足跡を明らかにしていきます。
現場責任者の稲田朋代さんは「500年にわたって先人が大切に遺してくれた勢至堂を、今度は私たちの世代が100年後、200年後の未来へと受け継ぎたい」と話します。
工事は2030年10月末までの予定です。
歴史的建造物の大規模修理
京都府では設計監理と木工事の一部を府の職員が行っています。勢至堂の保存修理事業は文化庁の国庫補助事業であり、知恩院からの委託を受けて京都府が実施しています。
京都ならではの伝統工法
熟練の職人による施工は、若い世代に技術を継承する貴重な機会でもある。
仮設の屋根「素屋根」。通常は鉄パイプのみで組まれることが多いが、京都府の文化財修理現場では可能な限り丸太を使用する。
屋根に上り手作業で瓦を下ろしていく。
鴨居を外す瞬間。
工事中、古銭が見つかることがあるそう。「お賽銭としてお堂に投げ入れたものでしょうか。これも貴重な史料として保管し調査します」(稲田さん)。
使える素材は遺して活用
「古い材料も状態がよければ元の場所に戻してこれまでどおり活用する。これが文化財修理の鉄則です。」と原さん。
例えば取り外した瓦はすべて打音検査を行い、異常がなければ木部の修理が終わった後、再び屋根に載せるそう。瓦をよく見ると、室町時代後期のものと見られる瓦と明治の大修理で補足された瓦が混在している。
「明治期に作られた瓦には雨漏り防止のための水切りがついています。また、屋根軽量化のための工法を取り入れるなど、当時の職人の建物に対する想いが伝わってきます」(稲田さん)。
金づちで瓦を叩き、打音検査を行う様子。
1553年瓦葺になった当時の瓦。ところどころ欠けが見られるが、刻まれた模様は綺麗に残っている。
知恩院京都市東山区林下町400
TEL:075(531)2111
勢至堂の改修工事は2030年10月末までの予定
(次回に続く。
この特集の記事一覧はこちらから>>)