〔特集〕誌上でゆっくり学ぶ・愛でる 京都の“別格” 京都では合わせて17の寺社が世界遺産に登録されていますが、平安遷都にあたり大きな意味を持った構成資産が2か所あります。桓武天皇が遷都の成功を祈願した京都最古の下鴨神社と新しい都を守るために作られ、平安京造営の起点となった東寺です。千年の都では、世界遺産以外にも名所・名刹は数しれず ── 深淵なる京都の別格を訪ね、日本の真髄(こころ)を学びます。
前回の記事はこちら>>・
特集「京都の別格」の記事一覧はこちら>>>
浄瑠璃寺住職 佐伯功勝さんに学ぶ
極楽浄土の教え
浄瑠璃寺の伽藍配置は、宝池を中央に、東に薬師如来坐像を祀る三重塔が、西に九体阿弥陀如来坐像を安置する本堂があります。
浄土をかたどる伽藍配置本堂前から宝池越しに東の三重塔を眺める。「中島の先端に積まれた石は須弥山(しゅみせん)石ともいって、現世から来世に行くときに乗り越える山を表しています。三重塔と本堂の中央を結ぶ線上に造られていて、この配置も浄土庭園のセオリーだったようです」(佐伯住職)。
「本堂の阿弥陀堂とその手前の宝池が、阿弥陀様がいらっしゃる極楽浄土を表現しています。お堂から見て池の向こう側である東方が此(こ)の世、こちらの西方があの世です。我々は現世にいますから、本来は池の向こう側から阿弥陀様を拝みます。お堂は仏様の厨子であり、人が入る場所ではなかったのです。堂の中で拝むようになったのは江戸時代からだといわれています。湧き水を源とする宝池は、極楽浄土にある池を海に見立てているんですね。荒波が押し寄せる磯や海岸を石で表現しています」
〔国宝〕京都最古の三重塔藤原時代。安元の大火翌年の治承2(1178)年に洛中より移築。檜皮葺。
一方、東の三重塔に祀られているのは、秘仏・薬師如来坐像です。東の薬師と西の阿弥陀、この配置にも意味があると佐伯住職はいいます。
「薬師様は日の昇る東方の仏様で、澄み切った浄瑠璃浄土にいらっしゃり、過去世から現世へと命を送り出してくださいます。薬師様はこの寺の最初のご本尊で、浄瑠璃寺の名前もこちらからきています。日が沈む西方にいて人々を極楽浄土に迎えてくださるのが阿弥陀様ですね。東から西へ、過去、現在、未来があると。その順序に従えば、まず東に行って薬師様をお参りし、向こうで回れ右をして阿弥陀様に来迎を祈るというのが本来の作法でしょう」。
〔国宝〕九体阿弥陀如来中尊像藤原時代。金色に輝く中尊像は、左右8体に比べひときわ大きい。結ぶ来迎印には、弱き者を引き上げ、助けるという意味がある。
江戸時代に制作された「千仏光背」だが、4体の飛天は藤原時代当初のもの。
境内自体が仏教の世界観を具現している浄瑠璃寺ですが、その根底には、古来日本人が大切にしてきた自然観があります。
「昔の人は、日の昇る方が物事の始まる方で、日の沈む方が終わる方であるという摂理に従っていました。年に2回、昼と夜が同じ長さになる春分と秋分の日には、三重塔の後ろから太陽が昇り本堂の中心に沈みます。過去と未来が太陽で結ばれるように建てたということですね。いかに自然と人間の調和というのを意識していたかがわかります。今の我々は文明のほうに走りすぎてしまって、自然の意味を忘れているところが多いと感じます。本来、仏様の世界も含めてすべては自然の中にある。近頃の詐欺の問題などにも通じますが、物事の不自然に気づくにはまず自然を知らねばなりません。この寺がそんなことに気づくきっかけにもなればと思います」。
〔国宝〕四天王像 持国天像(前)と増長天像(後)藤原時代。全身には彩色や截金(きりかね)で美しい装飾が施されている。
先の見えない末法の世で、平安の人々が焦がれた浄土。しかし実は現世すらも浄土になりうると佐伯住職はいいます。
「浄瑠璃浄土や極楽浄土に限らず、仏様の数だけ浄土があります。弘法大師空海さんがいうには、現世も浄土であると。これを密厳(みつごん)浄土といいますが、理想の世界である浄土は結局のところ、我々がそう思えるかどうかなのです。宝石が光り輝き、花が咲き乱れ、生き物が楽しく暮らすのが阿弥陀様の浄土だとして、今の世界もよく見ればそんなところがあります。うまくやれている世界であればどんなところも浄土だと、そういう発想もあります。ぜひ、皆さんにとっての身近な浄土を普段から探してみてください」。
石仏佇む山里(当尾)は、安らぎの浄土
当尾は古来、大寺から僧が修養に訪れた仏教の聖地。別名「石仏の里」と称されるほど、腕利きの仏師や修行者が刻んだ多くの石仏が今も大切に保存され、訪れる人を迎えます。
〈わらい仏〉優しいお顔の阿弥陀三尊は、当尾でよく知られる石仏の一つ。
〈阿弥陀地蔵磨崖仏(まがいぶつ)〉「灯籠の中を掘ってロウソクが立てられるようにしてあり、そのセンスもすごいなと思います」と佐伯住職。
〈六体地蔵〉死者の霊が六道で迷わぬように導いてくださる。
〈藪の中三仏磨崖仏〉弘長2(1262)年に彫られた。
浄瑠璃寺永承2(1047)年創建の古刹。別名九体(くたい)寺とも称される。
住所:京都府木津川市加茂町西小札場40
TEL:0774(76)2390
開門時間:9時~17時(12、1、2月は~16時)
(次回に続く。
この特集の記事一覧はこちらから>>)