ジュエリー見聞録 宝石史研究家・山口 遼さんの解説で、素晴らしいジュエリーとその見どころをお届けします。
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絢爛たる色石の花畑に目を奪われる
解説/山口 遼(宝飾史研究家)
デザイナーがデザインを描き、それを実際に作る過程には二つの方法があります。一つは、最初から使う宝石が手元にあって、それをデザインするもの、もう一つは、宝石のある無しには関係なく、好きなデザインを描くものです。後者の場合、宝石を集める担当者は大汗をかきます。私の想像ですが、このデザインを考えたデザイナーは、「ディオール」社の金庫に眠る膨大な小さな宝石の山を見ているうちに思いついたのではないでしょうか。それほどに使われている宝石の種類は数多く多彩であり、デザインを先に考えて宝石を集めたとはとても思えないのです。
基本のデザインは花です。といっても、花の形を具体的に宝石で描くのではなく、中央に据えた宝石の周りに、別の宝石で4弁から6弁の取り巻きをつけた形式的な小さな花模様を、数多く並べたもの。その意味では、花畑のデザインと呼んだ方が正確かもしれません。花模様の下にある白い部分は、なんと白蝶貝の内側を削り出した真珠母貝。独特の輝きが見事です。
中央部分から、大きなオーバルカットのダイヤモンドが、花模様に取り巻かれて垂れ下がっていますが、このネックレスを目にした人が最初に気づくのはダイヤモンドではなく、あまりにも絢爛たる色石の山だと想像します。デザインの中には、ラッカーで彩色された小動物が数匹、うずくまって彩りを添えています。その執念ともいえるこだわり、ディオールの大胆さには感嘆するほかありません。
類稀なサヴォアフェールによる魔法のようなコレクション
マザーオブパールと多くの色石を細やかにレイヤードすることで複雑なニュアンスを表現。「ディオレクスキ」(WG×ホワイト&イエローダイヤモンド×マザーオブパール×エメラルド×ピンクサファイア×スピネル×ツァボライト×ロードライトガーネット×ターコイズ×パール)9億4000万円(参考価格)/ディオール ファイン ジュエリー
●お問い合わせ/クリスチャン ディオール
TEL:0120-02-1947