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今森光彦さん「いきものと歩む“環境農家”の愉しみ」第6回 蘇る、五感

2025.09.11

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〔連載〕生きものと歩む “環境農家”の愉しみ 
地球が育んだ生命に触れることは、本来、自分が持っている感覚を研ぎ澄ませ、発想を豊かにする、と話す今森光彦さん。

写真の撮影や、里山の保全、農業などのほかに長い間熱中しているのは「切り絵」です。仰木の住民になり、畑仕事をする中で、切り絵づくりの視点にも変化がありました。前回の記事はこちら>>

連載「“環境農家”の愉しみ」の記事一覧はこちらから>>


第6回 蘇る、五感

ほんの少し風が涼しくなってきました。田んぼは稲が実って黄金色。「光の田園」が一年の中で最も明るくなる季節です。

裏の畑では、ズッキーニやトマトなどの夏物の野菜を整理して、秋に向けて土を耕しています。このタイミングで早々に新米が出回るのですが、脱穀のときできるぬかやもみ殻も見逃すわけにはいきません。毎年専業農家の友人にお願いして手に入れます。畑が広いので、軽トラックを使って運び、それをすき込みます。土作りと同時に行うのがねぎや寒咲花菜の種まき。これらは冬や来春のことを考えながらの作業になります。

比良山地が遠望できる裏の畑。写真の左側にも倍以上の農地が広がっている。こんもりとした照葉樹の小山は、鎮守の杜だ。その下に緩やかな棚田が広がっているが、これらの環境と畑が自然に繫がっているように見える風景にしたかった。

この頃からじんわりと力が入ってくるのがライフワークの切り絵です。切り絵は、小学生時代の6年間熱中していました。田畑や雑木林、琵琶湖などで遊んでいた時期と重なります。昆虫や魚など、あれだけたくさんリアルな命と触れ合っているのにまだ飽き足らず、家に帰ってからも生きものの切り絵をするという有り様。よく集中力が続いたものです。自然の精緻な美しさにとことん魅了されていたのでしょう。

それ以来、長い年月ブランクがあったのですが、なんと十数年前に再開しました。写真家なのに、切り絵もするのか、なんて言われそうですが、使う脳みそは全く違うようです。写真の方は、被写体に出会ってシャッターチャンスを待って撮らねばなりません。

一方、切り絵の方は、写真に撮れずにいた目に焼き付いた場面を蘇らせることができます。たとえそれが現実にありえない光景でも想像する楽しさもあります。真実と空想、写真と切り絵は、私の中で微妙に補い合っているのかも知れません。

「畑は、私にとってアイディアの泉」

切り絵の制作をするのはアトリエ。ここなら資料などがそろっているので集中して作業に取り組める。部屋の中には、オーディオ関係は置いておらず、BGMは鳥の声や風の音。私にとっては、想像力を膨らませるのに最良の空間だ。

私の切り絵は、ハサミを使います。カッターナイフは使いません。しかも、やや大きめの工作バサミ一種類だけです。これは、幼い頃に裁ち物バサミに出会ったからだと思います。母親は、子どもの手には大きすぎるハサミを日がな使う息子を見て、腱鞘炎にならないかと心配していたようです。

ハサミにこだわっているのは、他にも理由があります。カッターは、手で握って机の上で作業します。ハサミの方は、握るというよりも指に“ハメル”感覚です。カッターは、物を切る道具なのですが、ハサミの方は、手との一体感があり、刃先が指の一部になっている感覚になります。ハサミは、机を必要とせず、顔も上向きで疲れにくいです。慣れてくると、人と話をしながら切り絵を楽しむことができます。

落語で寄席の合間に、お客さんからお題をもらって、漫談をしながらその場で作品を作る“紙切芸”は、ハサミならではの醍醐味です。それと、童話作家で知られるアンデルセンは、街角で子どもたちを集めて、椅子に座り物語を話しながら切り絵をしたと言われています。

このようにハサミの切り絵は、モチーフとの距離が短く即興性があり、屋外でも可能なことから自然を表現する「畑は、私にとってアイディアの泉」手段としてたいへん優れています。

切り絵の題材は、今まで地球のあちこちで発見した自然です。場所は熱帯雨林からサバンナまで様々。でも、やはり一番多いのは、何と言っても身近な里山環境からでしょう。「オーレリアンの庭」や裏の畑の生きものたちもよくモチーフになります。こうした自然に対しては、自分が旅人としてではなく、同じ住人として愛着があるので、発想が豊かになるのだと思います。

裏の畑は、私にとってアイディアの泉でもあるのです。

アトリエでのティータイムは、私にとって至福の時間。次はどんな作品をつくろうかと思案するのもここ。この部屋には、定期的に親しい仲間が集まってきて、みんなの団らん場所にもなっている。


9月・畑の頼れる仲間たち

真っ赤な体が鮮やかなショウジョウトンボ。

ショウジョウトンボ

9月頃まで見られるので、赤とんぼとよく間違えられます。裏の畑の側溝にやってきます。チョウゲンボウは、「光の田園」ではよく出会う猛禽類です。

チョウゲンボウ

畑は、獲物になる小昆虫がたくさんいるせいか、上空を飛翔している姿を見ます。下から眺めると小形で白っぽく見えるのでよくわかります。畑の脇に咲いたフジバカマの花にやってきたのはアサギマダラ。

アサギマダラ

この異国情緒たっぷりな大形の蝶は、旅をすることで有名で、南西諸島や台湾まで移動することが知られています。写真のアサギマダラは、旅の途中で、ひとときの憩いの時間なのです。

文・切り絵/今森光彦 撮影/今森元希

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