浅草の人情に支えられての自主公演
ーー先ほどもお話が出ましたが自主公演は会場の予約からキャスティング、チラシやパンフレットの制作までご自身でされることが多いのではないでしょうか。
鶴松「自主公演って、よかったら褒められますがうまくいかなかったら今後の役者人生にも影響することにあえて挑戦するわけで、その上、いろいろな手配も自分でしなければならなくて、時間的にも精神的にも本当に追い込まれるんです。事務的なことに忙殺されて役が疎かになっては本末転倒ですし。でも、そんなリスクを背負っての極限状態を経験することで見えてくるものも確かにありますね。
僕ら役者は普段は台詞や振りを覚えて舞台に立つだけですが、その後ろで公演を成立させるためにスタッフや事務所の方がどれだけ動いてくださっているかも、第一回の公演で身にしみました」
ーー会場は浅草公会堂。中村屋にとって縁の深い浅草の方々も、鶴松さんの心強い応援団のはず。
鶴松「浅草の方たちは本当に温かくて、今回もポスターを持って70軒くらいご挨拶回りをしましたが、背中を押されるいろいろなお声をいただきました。いい公演にすることで、微力ですがこの方たちのために街を盛り上げたいという思いもあります。
今年は先輩や同世代による浅草公会堂での自主公演が続いていますが、2022年に僕が第一回の鶴明会を開催した時は"浅草公会堂で自主公演”というのはあまり先例がなかったんです。鶴明会を観に来てくれた役者さんたちがこの街、この会場でやるのもいいな、と思って選んでくれたのだったら嬉しいですね」
ーー鶴明会はこれからも第三回、第四回と続いていくのでしょうか?
鶴松「本当はもっと早く、20代前半から始めるべきだったとも思っています。第一回はコロナ禍でなかなか実現できなかったですし、そこから第二回まで3年間空きましたけれど、これからは毎年、五回十回と続けていきたいです。自分に鞭を打つことで見えてくるものもあるはず。
歌舞伎には、若い役者を応援して自分も年齢を重ねながら役者の成長の姿をずっと死ぬまで見続けるという楽しみ方があります。今回来てくださった方に何十年か後に『今は歌舞伎座で活躍している鶴松が第二回鶴明会で初めて勘平と雨乞狐をやった時に観たんだよ、あれはよかった』とおっしゃっていただけるよう、いい公演にしたいと思っています」
第一回「鶴明会」より 『高坏』 次郎冠者

第一回「鶴明会」より 『春興鏡獅子』 獅子の精 ともに撮影/桑田絵梨
中村鶴松さん1995年3月15日生まれ。2000年5月歌舞伎座『源氏物語』の竹麿で清水大希の名で初舞台。以後数多くの舞台に出演。05年5月十八代目中村勘三郎の部屋子となり、歌舞伎座『菅原伝授手習鑑』車引の杉王丸で二代目中村鶴松を名のる。近年は音楽劇「くるみ割り人形外伝」やドラマなど歌舞伎以外にも活躍の場を広げる。
中村鶴松 自主公演 第二回「鶴(かく)明(めい)会」 日時:2025年9月18日(木) 17:30開演
9月19日(金) 11:00開演/16:30開演
会場:浅草公会堂
演目:1.仮名手本忠臣蔵 五段目 六段目、2.雨乞狐
お問い合わせ:サンライズインフォメーション
0570-00-3337(平日12時~15時)