知っておきたい女性のからだと健康 第9回(後編)女性のやせ(低体重)や栄養不足は骨粗鬆症や月経異常、糖尿病、フレイル(虚弱)などさまざまな健康問題を引き起こします。日本肥満学会で低体重/低栄養対策に取り組む順天堂大学大学院医学研究科スポーツ医学・スポートロジー/代謝内分泌内科学 教授の田村好史先生に低体重/低栄養の影響や予防などについて伺います。
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「やせ(低体重/低栄養)」
[お話を伺った方]
順天堂大学大学院 医学研究科 スポーツ医学・スポートロジー/代謝内分泌内科学 教授 マイウェルボディ協議会 代表幹事
田村好史先生
たむら・よしふみ 1997年順天堂大学医学部卒業。カナダ・トロント大学生理学教室に留学後、順天堂大学医学部内科学代謝内分泌学講座准教授、スポーツ庁参与を経て、2017年同大学国際教養学部グローバルヘルスサービス領域教授、24年から同大学大学院医学研究科スポーツ医学・スポートロジー教授、代謝内分泌内科学教授を併任。医学博士。
あなたも低体重や低栄養に当てはまるかもしれません。糖尿病や骨粗鬆症などの原因となる“やせ”。体重や食事、ボディイメージを見直しましょう
田村先生によると、ウェブ調査などから明らかになった低体重/低栄養の女性の特徴として、“日々食事や体重に気をつけている”“朝食を摂らない。その分、時間やお金が節約になり、体重も減りやすいと考えている”“SNSやメディアに敏感”“自己肯定感がやや低い”“ストレスによって食欲が変動しやすい”“いつも体調がいま一つ”といった点が挙げられるそうです。
「特に若い女性は自分が持つ(すり込まれた)美の基準に近づこうと食べないようにして、知らない間に調子を落とすことがあります。食べられるものがあるにもかかわらず、食べるのを我慢するのは生物としては不自然なこと。食べることも食べないこともストレスになる、食べるべきものを食べられていない状態、それを生み出す社会的な構造を見つめ直すことが重要です」。
無意識に“やせを賞賛する言葉”を発していませんか
肥満の予防や治療は大切ですが、一方で、健康でぽっちゃりしている女性もいます。「健康を保てる適正な体重、自分の体に持つボディイメージには個人差が大きいのです」と田村先生。
「やせてきれいになったね」「スリムだと洋服が似合うね」「そんなに食べると太っちゃうよ」といった言葉は、“やせている=美しい”という価値観を押しつけたり、“やせなければならない”というプレッシャーを与えたりしているかもしれません。田村先生は特に母親が娘に、あるいは祖母が孫に何気なくこのような言葉をかけていることがやせ願望や極端なダイエット、低体重や低栄養につながる可能性を指摘します。
「私たちの調査では、小学1年生の女児の約3割、6年生の女児の約半数にやせ願望があることが明らかになっています。子どもたちの将来の健康や生活を見据えて、成長すべき時期に低体重や低栄養にならないよう、大人が気をつけなければならないと考えています」。 18歳以上で閉経前までの成人女性を対象とした場合の女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:FUS)に含まれる主な疾患や状態
●低栄養・体組成の異常●BMI 18.5kg/m
2未満
●低筋肉量・筋力低下
●栄養素不足(ビタミンD・葉酸・亜鉛・鉄・カルシウムなど)
●貧血(鉄欠乏性貧血など)
●性ホルモンの異常●月経周期異常(視床下部性無月経・希発月経)
●骨代謝の異常●低骨密度(骨粗鬆症または骨減少症)
●その他の代謝異常●耐糖能異常(糖尿病を含む)
●低T3症候群(甲状腺ホルモンの異常)
●脂質異常症
●循環・血液の異常●徐脈
●低血圧
●精神・神経・全身症状●精神症状(抑うつ、不安、集中力低下、認知機能低下)
●身体症状(倦怠感、睡眠障害、冷え性、頭痛、便秘、髪質や肌質の低下)
●身体活動の低下
出典:日本肥満学会 女性の低体重/低栄養症候群ワーキンググループ
自分や子どもの将来の健康に目を向けたい
FUSは多様な疾患や状態と結びついています(上)。
特に骨の成長や維持に関して、体重や栄養は大きな影響を与えます。骨密度は10代で急激に上昇し、20〜30歳頃にピークとなります。体重が多いほど骨密度は高くなるため、この年代で低体重になったり、たんぱく質、カルシウムといった骨の成長に必要な栄養素が不足したりすると、若い時期からの骨減少症、骨粗鬆症を招きます。
低体重/低栄養は女性ホルモンの分泌を抑制し、月経異常や不妊症の原因になります。また、妊娠時に低体重/低栄養であると胎児の体重が増えにくく、低出生体重児は成人になって糖尿病、高血圧、脂質異常症などを発症するリスクが高いと報告されています。
さらに、低栄養は、貧血、肌や髪の質の低下なども引き起こします。
「やせていると糖尿病の発症リスクが上がることはあまり知られていません」と田村先生。低体重/低栄養状態では糖を取り込む作用がある筋肉量が減ったり、活動量が減ったりするため、血糖値が上がりやすくなります。40〜79歳の糖尿病ではない日本人を対象に平均9・5年追跡して糖尿病発症リスクを算出した研究(2012年)では、BMI18・5〜22・9の女性を1とすると、BMI25以上の肥満の女性は1・74倍、BMI18・5未満の女性は1・93倍と、やせた女性は肥満の女性よりも数値的にリスクが高く、標準体重の約2倍でした。「私たちの最近の研究では、BMI18・5未満の20代女性は、血糖値が標準体重の女性の約7倍上がりやすいことがわかりました。妊娠前の体重が低いほど妊娠糖尿病になりやすいことも報告されています」。
田村先生の研究グループでは、今年、企業の健康保険組合と連携して、試験的にFUS検診を始めます。自覚症状や骨密度などを測定して低体重/低栄養状態にある女性をスクリーニングし、食事や運動、心理状態の改善を支援します。「企業では女性のFUSを予防・改善することで生産性が上がる可能性があります。今年度の検診結果を検討して、よりよいチェック方法やサポート方法を探っていきます」。
低体重/低栄養は閉経後の健康にも大きな課題
FUSは閉経前の成人女性を対象としています。とはいえ、低体重/低栄養は閉経後の女性にも大きな問題です。FUSの状態で閉経を迎えると、あるいは閉経後に低体重/低栄養になると、骨粗鬆症が進み、フレイルやサルコペニア、糖尿病のリスクが上がって、ひいては死亡リスクが高まると考えられます(下)。

高齢になると食事量が減りやすく、適量の栄養バランスのよい食事はやはり大切です。
低体重や低栄養に陥らないために、田村先生は、年齢にかかわらず、一日3食、毎回主食と主菜や副菜を摂る、たんぱく質を欠かさない、毎日8000歩程度歩き、週3回以上筋力トレーニングを行うことをすすめます。「こうした習慣によって体重が増えたり、栄養状態が改善したりして体調がよくなる人も多いのです。なお、現在受診中の人、腰痛や膝痛などがある人は医師や管理栄養士に相談してください」。
やせている女性への偏見は持たないで
日本肥満学会 女性の低体重/低栄養症候群ワーキンググループでは、女性のやせに警鐘を鳴らすと同時に、さまざまな理由でやせている女性に対する偏見が生まれるのを危惧しています。
例えば、特に食事制限や過剰な運動をしていなくても、低体重状態が続く体質である女性もいます。摂食障害や甲状腺機能亢進症、がんなどの病気によってやせが進行することもあるのです。また、経済的な事情で低体重や低栄養になってしまう場合もあります。
「SNSやファッション誌などが“やせ=美”という価値観を発信している影響で、やせなければというプレッシャーを感じて食べるのを我慢している女性もたくさんいます。女性の低体重や低栄養は、体質や病気、社会的な構造など個人の努力を超えるものが深く関連していることは知っていただきたいですね」と田村先生は話しています。
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FUSを正しく理解するための解説動画→ 企業や団体が加盟し、田村先生が代表幹事を務めるマイウェルボディ協議会では、FUSの広報活動や思春期の女性たちへの学校でのボディイメージ教育などを進めています。同協議会のYouTubeチャンネルでは、田村先生がFUSの概念や対策などをやさしく解説しています。
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