〔連載〕二階堂ふみが体験して学ぶ 日本の美 その“奥”へ さまざまな日本の伝統文化を体感し、その奥へと歩を進めて美の真髄を探る人気連載。今回は、二階堂ふみさんが大好きだという東京・駒場の日本民藝館を訪ねました。館長の深澤直人さんとの対話により、民藝の新たな魅力を発見します。
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第5回 日本民藝館
日本民藝館の本館前に立つ二階堂さん。きものはアンティークの宮古上布。麻の古布で仕立てた帯と昭和初期の陶製の帯留めを合わせ、竹籠に古更紗をあしらった茶籠を手にして。草履は畳表、鼻緒はグレー本天の花織/すべて石田節子呉服店
深澤直人(ふかさわ・なおと)プロダクトデザイナー。日本民藝館第5代館長。多摩美術大学副学長。良品計画デザインアドバイザリーボード。1956年、山梨県出身。80年多摩美術大学卒業。日用品、電子精密機器から家具、インテリア、建築まで、幅広い領域のプロダクトデザインを手がける。
たくまざる形に美を見出した柳 宗悦(むねよし)の哲学に触れる
日本を代表する思想家の柳 宗悦(むねよし)が、民衆的工芸品の美を称賛するため、1925年に生み出した言葉、「民藝」。日本民藝館は1936年竣工。柳の審美眼により蒐集された約1万7000点を収蔵しています。
和風意匠を基調に、洋風を随所に取り入れた建物は、柳 宗悦が中心となって設計。2階第1室にて、朝鮮の白磁や染付を鑑賞する二階堂さん。「民藝の品は、生活に根ざした一生ものであると同時に、遊び心も感じられます」
「“民藝”という言葉を“デザイン”に置き換えて考えると新たな発見があります」── 深澤直人
深澤さん(以下、深澤) こちらにはよくいらっしゃると伺いました。
二階堂さん(以下、二階堂) この建物も、展示品も大好きです。
深澤 住宅街に静かに佇んでいる姿が素敵ですよね。私は仕事でアメリカに渡る前、日本のことをもっと知っておきたいと思い、初めてここを訪れました。民藝という言葉が、柳宗悦の造語だと知り、昔からある言葉だと思っていたので驚いたことをよく覚えています。
二階堂 今では普通に使っていますが、新しい言葉なのですね。
深澤 デザインという概念が確立したのが19世紀末ですから、その少し後のことになります。柳の民藝に関する言葉は、それをデザインと言い換えてもぴったり当てはまります。そのことに感動を覚えました。
二階堂 たくまざる形の民藝とデザインの間には、共通点があるのですね。とても興味深いです。
使った人の生活が見えるのが民藝の大きな魅力
国内外の品々がずらりと並ぶ展示に、足を止めてじっと見入る二階堂さん。取材時には大展示室で特別展『民藝 無作為の美──深澤直人が心を打たれたものたち』が開催されていました(2025年6月1日で終了)。
日本民藝館を象徴する空間、玄関にて。磨き込まれた木の大階段が来場者を出迎える。壁は白漆喰で、床は大谷石。「最近は、外国人のお客様にも多数お越しいただいています」と深澤館長。「心をくすぐられる素敵なものに出会える場所です」と二階堂さん。
「展示されている品の一つ一つにその時代に生きて、使った人の生活が宿っているのが見えます」── 二階堂ふみ
深澤 こちらは、収蔵庫にある膨大な品の中から、私が単純に「いいな」と思ったものを選んでいます。優しくて、温かみのある形のものが多いですね。民藝の歴史や由来ではなく、ただデザイナーとしての直観でもの選びをしています。
二階堂 硯、鍋、茶碗、火鉢など、その時代の人々の暮らしが見えるところに民藝の魅力がありますね。
深澤 たとえば急須などを見ると、お茶をどのように淹れるかによって、ハンドルを付ける位置や角度が決められています。行為が形に表れているということなのでしょう。
二階堂 そこに美を見出すことが、“用の美”ということなのですね。
多様な「おろし皿」を集めた展示ケース前で。「こういうものを集めるところが、柳の感覚なのでしょう」と深澤さん。
深澤 加えて、墨をするときに使う水滴などは、すごく洒落た形のものや、信じられないくらい小さなものもあります。昔は文字を書くときには必ず墨を使いましたから、文化がよく表れています。
二階堂 一つ一つに注目すると、大切に使われていたのだなということが見えてきますね。
深澤 今のスマートフォンのようなものではないでしょうか。使い方によって、その人のオリジナリティが出ます。
二階堂 当時は今よりも生活そのものが大変だった時代だと思うのですが、こういうところに遊び心があるのはとても贅沢なことですね。
深澤 昔の人がそれを贅沢と認識していたかどうかはわかりませんが、習慣としての豊かさがありますね。
二階堂 民藝がもつ機能的な“用の美”と、文化を表す形。確かに、どちらもデザインに通じていますね。
それぞれの土地柄に表れる日本のものづくりの誠実さ
最後に、現代の作り手たちによる民藝が販売されているミュージアムショップへ。
ミュージアムショップにて、小鹿田焼のポットを手に取る。「温かみのある陶器や、ガラス、籠も大好きで、目移りしてしまいます」。二階堂さんが日頃愛用している、柳 宗悦の長男で3代目館長を務めた柳宗理がデザインしたカトラリーも揃う。
二階堂 もう一つ私が感じている民藝の魅力は、地域性です。沖縄で暮らしていた頃は、沖縄のものがあまりに近い存在だったので、その美しさをはっきりと認識することができませんでした。でも一度離れてから沖縄に帰り、紅びん型がたの、あの鮮やかな黄色を見たときに、なんて綺麗なんだろうと改めて感じたんですね。柳宗悦さんは、それぞれの地域特有の個性をもつ工芸品や日用品に、美を見出されたのですね。
深澤 柳は、沖縄や北海道はじめ、日本各地や海外へも出かけて、一つでもいいものを見つけると、仲間と共に通い続けました。
二階堂 時代的な背景としては琉球文化がまだ評価されていなかった頃に、柳さんが「これはいい」とリスペクトしてくれたおかげで、今があるのだろうと思いました。
深澤 こと沖縄に関しては、沖縄館を新たに建てようという計画をしていたくらい、力を入れていたと聞いています。琉球時代からの記録写真もたくさん残っています。
二階堂 こうした、いわば土着的な美しさというものをもつ国に生まれたということは、すごく意味のあることだと思っています。
深澤 残念なことに、それがすでに衰退しているのが現状です。ほぼなくなりかけているといえます。
二階堂 そうですよね。私たちが意識して、もっと大切にしていかなければと考えています。でもこのミュージアムショップには、その伝統と精神を受け継いでいる方々が作った、本当に素敵なものがたくさん並んでいますね。
深澤 ここは狭いけれども日本でも指折りの“民藝セレクトショップ”です(笑)。何もかもが便利になっている現代にあって、特に若い世代の人の中から、あえて民藝に新たな意味を見出して作り手になったり、民藝の品を手に取って心を慰められたりする人が増えてくれるのではないかと期待しています。
二階堂 私もお友達へのプレゼントを購入して帰りたいと思います。ありがとうございました。
<二階堂さんが特に惹かれたものたち>
大展示室の正面に掛けられていた、大の字文暖簾(京都 明治時代)。「文字がおおらかで、楽しい気持ちになります」。
藁で編まれた手袋(山形 昭和時代)。「その土地ならではの特徴が表れたものが好きですね」。
鋳型に手形を押して作られた手押文湯釜(江戸時代 18世紀)。「手で直接触ったら熱いのに、なぜ? ユーモアを感じます」。
日本民藝館東京都目黒区駒場4-3-33
03-3467-4527(10時~17時)
月曜休館(祝日の場合は翌日)
入館料:一般1500円
二階堂ふみ(にかいどう・ふみ)俳優。1994年、沖縄県出身。2009年、映画『ガマの油』でスクリーンデビュー。2024年『SHOGUN将軍』では落葉の方を演じる。2025年9月5日に公開予定の日・英・ポーランド合作映画『遠い山なみの光』では、物語の重要な鍵を握る役を演じる。