〔特集〕2025〜2026年、3大展覧会開催 “ゴッホイヤー”を楽しむ─Vincent van Gogh─ ゴッホがこの世を去った1890年の135年後にあたる2025年から26年にかけて3つの大規模な展覧会が日本各地で開催されます。27歳で画家を志し、37歳で没するまでに約2000点の作品を描き、ひと目見て誰もが“ゴッホの絵だ”とわかる独自の画風に到達した人の家族、画業、生涯を、各展覧会の担当学芸員の方々のお話から紐解きます。
前回の記事はこちら>>*掲載作品がどの展覧会で展示されるか、あるいは展示されないかは、作品名に続く数字でご確認いただけます。①=「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」 ②=「大ゴッホ展 夜のカフェテラス」 ③=「ゴッホ・インパクト─生成する情熱」 ④日本での展示なし
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女性コレクターが築いた美術館──クレラー=ミュラー美術館
製鉄業で成功し、「ミュラー商会」を設立した実業家を父に持つへレーネ・クレラー=ミュラーは、1869年、ドイツに生まれました。夫のアントンが会社を引き継いで発展させ、オランダ最大の富豪と呼ばれるまでに。大富豪夫人としての暮らしのなかで彼女がのめり込んだのがアート、特にゴッホの作品でした。
かつて夫妻が狩猟場としていた広大な敷地にて。現在はフェールヴェ国立公園となり、その中に美術館がある。
©Photographic Archive Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands
ファン・ゴッホ美術館に次ぐコレクション
初めての作品購入は、ゴッホの死から18年後の1908年。1905年にはヨーの尽力によりアムステルダム市立美術館で個展が開催されるなど、ゴッホの評価が高まりつつあった時期でした。
「娘の個人教師として雇ったH.P.ブレマーとの出会いがきっかけでした。彼はゴッホの研究をしており、ゴッホが母に託し、母の死後に散逸していた作品群など、どこにどんな作品があるのかを把握していたのです」と塚原さん。最初に購入した作品《森のはずれ》は、今回の「大ゴッホ展 夜のカフェテラス」で展示されます。
へレーネが鑑賞した絵画の感想や雑誌などの切り抜きをまとめていたノート。へレーネは近代美術についての考察を記した書籍も出版した。
Courtesy of Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands. This photograph was taken in 2015.
「この作品の価格は、110ギルダーでした。同時期に購入した《4本のヒマワリ》は、4600ギルダー。その後、へレーネが莫大な資金力を背景にオークションで競るため価格が釣り上がり、1920年代には、1万8000ギルダーで取り引きされる作品も現れます。このことが、近代美術としてのゴッホ作品の社会的・国際的な知名度を上げた要因の一つだといえます」(塚原さん)
《レモンの入った籠と壜》を購入した際にへレーネが記入した帳簿。1500ギルダーと書かれている。
Courtesy of Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands. This photograph was taken in 2015.
こうして築いたゴッホのコレクションは油彩画約88点、ドローイング約180点以上。これは、家族が守り、現在ファン・ゴッホ美術館に所蔵される作品数に次ぐ、世界第2位の所蔵数を誇ります。
手前の作品が《レモンの入った籠と壜》④。
額装のデザインもへレーネが指示したという。(すべて2015年本誌撮影。)
Courtesy of Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands. This photograph was taken in 2015.
「クレラー=ミュラー美術館」は、ミュラー家が所有していた広大な土地を国立公園とした中にへレーネが築いたコレクションすべてを寄贈して1938年に設立され、彼女自身が初代館長に就任しました。
クレラー=ミュラー美術館の外観。緑豊かで広大な公園の中にある。公園内には、ミュラー家が建てた邸宅も残されている。
Courtesy of Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands. This photograph was taken in 2015.
へレーネが描いた夢は、現在もオランダを代表する近現代美術館として発展を続けています。
お話を伺った方々大橋菜都子さん/東京都美術館 学芸員専門はフランス近代美術。「ゴッホとゴーギャン展」等を担当。主な著書に『ルノワール作品集』がある。
塚原 晃さん/神戸市立博物館 学芸員専門は南蛮美術など、西洋の影響を受けた日本美術全般。「メゾチントと洋風画」(『國華』1498)など論考多数。
工藤弘二さん/ポーラ美術館 学芸員専門はフランス近代美術史。おもに印象派の画家たちをテーマとした展覧会を担当している。
(次回へ続く。
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