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ゴッホ独自の画風に行き着くまで。筆遣いに注目して作品を鑑賞してみませんか

2025.07.29

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〔特集〕2025〜2026年、3大展覧会開催 “ゴッホイヤー”を楽しむ─Vincent van Gogh─ ゴッホがこの世を去った1890年の135年後にあたる2025年から26年にかけて3つの大規模な展覧会が日本各地で開催されます。27歳で画家を志し、37歳で没するまでに約2000点の作品を描き、ひと目見て誰もが“ゴッホの絵だ”とわかる独自の画風に到達した人の家族、画業、生涯を、各展覧会の担当学芸員の方々のお話から紐解きます。前回の記事はこちら>>

*掲載作品がどの展覧会で展示されるか、あるいは展示されないかは、作品名に続く数字でご確認いただけます。①=「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」 ②=「大ゴッホ展 夜のカフェテラス」 ③=「ゴッホ・インパクト─生成する情熱」 ④日本での展示なし

特集「“ゴッホイヤー”を楽しむ」の記事一覧はこちら>>>

独自の画風を求めて

《夜のプロヴァンスの田舎道》② 1890年5月 油彩/カンヴァス
サン=レミ=ド=プロヴァンスで最後に描いた作品。2015年、クレラー=ミュラー美術館修復室にて特別に本誌撮影。「大ゴッホ展アルルの跳ね橋」にて展示予定。
Courtesy of Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands. This photograph was taken in 2015.

画家になると決意してからのゴッホは、オランダ、ベルギー、パリ、アルルをはじめとする南仏と、次第に南へと移り住みました。それにつれて、画風に大きな変化が表れています。

試行錯誤の末に辿り着いた筆遣い

「絵を描き始めた時期のゴッホは、農民や農村風景などを写実的に描いたミレーやドービニーに代表されるフランスのバルビゾン派や、これに追従したオランダのハーグ派から大きな影響を受けていました。どちらも色数を抑えた、地味めの色調なので、ゴッホは鮮やかな色を使うことに抵抗を覚えていました。この傾向はパリ時代にもしばしば見られました」と神戸市立博物館 学芸員の塚原 晃さん。

漆塗りの中国製の木箱に入った毛糸玉。これを使って補色などの色彩を研究した。2015年本誌撮影。④
ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)
Van Gogh Museum, Amsterdam(Vincent van Gogh Foundation)

パリでは、ほかのほとんどの画家がアカデミーで学んでいたにもかかわらず、ゴッホはその機会を得ず、一人絵画に取り組みました。

「古典的な技術を独学し、デッサンを続けました。その努力にかなう表現力が身についたとしても、バルビゾン派やハーグ派の亜流からは脱却できない。大きな転機となったのはパリで印象派や新印象派の実際の作品を目にしたことでした」と塚原さん。

パリ時代の《レストランの室内》では、さまざまな技法が用いられています。

《レストランの室内》② 1887年夏 油彩/カンヴァス、45.5×56センチ クレラー=ミュラー美術館
上・2015年の修復時のもの。ニスを取り除くと、パステルカラーが出現した。下・修復を終えた同作。パリ時代に取り組んださまざまな技法が用いられている。
上・Courtesy of Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands. This photographwas taken in 2015.
下・©Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands. Photography byRik Klein Gotink

「壁面は新印象派の影響から細かな点描を用いる一方で、床面やテーブルクロスは点描が大まかになり、椅子には点描を用いていません。タッチを混ぜながら描いたことがわかります」(塚原さん)

画家になると決意してからわずか7〜8年で、今では誰もが知る独自の画風に辿り着きました。

「ゴッホは、抽象的なもの、想像上のものは描きませんでした。彼は感情を表現したのではなく、あくまでも、自分が見て感じたものを描いたのです」と塚原さん。

《夜のプロヴァンスの田舎道》部分。盛り上がった絵の具が乾かないうちに潰れた跡も見える。2015年本誌撮影。
Courtesy of Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands. This photograph was taken in 2015.

晩年の傑作の一つ《夜のプロヴァンスの田舎道》では、独自のタッチがいよいよ極まり、ゴッホの息遣いまで感じられるかのようです。

お話を伺った方々

大橋菜都子さん/東京都美術館 学芸員
専門はフランス近代美術。「ゴッホとゴーギャン展」等を担当。主な著書に『ルノワール作品集』がある。

塚原 晃さん/神戸市立博物館 学芸員
専門は南蛮美術など、西洋の影響を受けた日本美術全般。「メゾチントと洋風画」(『國華』1498)など論考多数。

工藤弘二さん/ポーラ美術館 学芸員
専門はフランス近代美術史。おもに印象派の画家たちをテーマとした展覧会を担当している。

(次回へ続く。この特集の一覧>>

この記事の掲載号

『家庭画報』2025年08月号

家庭画報 2025年08月号

撮影/小野祐次 構成・文/安藤菜穂子 Special thanks to Ms. Yachiyo Matsuzaki(Yata)

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