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江戸花菖蒲が呼び覚ました「紫」の魅力【新連載・アメシストの神秘 紫の復権】

2025.05.23

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[連載]アメシストの神秘 紫の復権 紫。それは神秘の色といわれます。宝石の第一人者である諏訪恭一さんはある日、一面に咲く花菖蒲に心引かれ、その魅力を探求するうちに、アメシストとの共通点を見出しました。紫の宝石アメシストは、遥か昔、約5000年前にその美しさを見出されながら、この200年間は不遇の時代とも考えられます。ともに神秘性を湛える鉱物と植物。今こそ、紫の持つ秘密を解き明かし、宝石アメシストの価値を復権すべく、あらゆる角度からその魅力を紐解いていく新連載のスタートです。

vol.1 江戸花菖蒲が呼び覚ました「紫」の魅力

洋の東西を問わず、高貴な色とされてきた「紫」を共通項に持つアメシストと花菖蒲。江戸時代に誕生した「寛政」(下)の深い青紫の花弁は、最高品質のアメシストの色そのものだ。

洋の東西を問わず、高貴な色とされてきた「紫」を共通項に持つアメシストと花菖蒲。江戸時代に誕生した「寛政」(下)の深い青紫の花弁は、最高品質のアメシストの色そのものだ。

小石川植物園にて閃いた、アメシストと江戸花菖蒲 美しい“紫”の共通点

江戸花菖蒲とアメシストの紫は、なぜかくも美しいのか。諏訪恭一さんが導き出した答えには「手入れ」「手仕事」「作り手」……多くの「手」がありました。

諏訪恭一さん(すわ・やすかず)1942年東京都生まれ。慶應義塾大学卒業。65年米国宝石学会(GIA)宝石鑑別士資格取得(日本人第一号)。諏訪貿易会長。国際貴金属宝飾品連盟色石委員会副委員長、国際色石協会執行委員などを歴任。2022年国立科学博物館特別展『宝石 地球がうみだすキセキ』監修。『決定版 宝石』(世界文化社)、『価値がわかる宝石図鑑』(ナツメ社)、『知っている人は得をしている宝石の価値』(新潮新書)など著書多数。

小石川植物園では、品種ごとにブロックを分けて管理し、隣同士は異なる品種を配置する。見頃は例年5月下旬~6月初旬。

小石川植物園では、品種ごとにブロックを分けて管理し、隣同士は異なる品種を配置する。見頃は例年5月下旬~6月初旬。

文・諏訪恭一


私は十数年にわたり、小石川植物園を月に5~6回、散歩コースとして訪れています。2年前の6月、園内の花菖蒲田で濃い青紫色の花菖蒲を目にしたとき、「これはアメシストの色だ」と直感しました。毎年初夏に見ているはずであるのに、また、紫色の花は数多あるのに、なぜこの花菖蒲の紫は、私にアメシストを呼び覚ますのか。


早速、植物園の川北 篤園長(当時)を訪ね、花菖蒲の担当者である清水淳子氏をご紹介いただき、書籍や図譜、花菖蒲の原種やさまざまな品種を間近で拝見し、取材を重ねました。

小石川植物園2代目園長、三好 学氏が1921年に発刊した『花菖蒲図譜』。右の絵はノハナショウブで、左は江戸花菖蒲の「剣の舞」。

小石川植物園2代目園長、三好 学氏が1921年に発刊した『花菖蒲図譜』。右の絵はノハナショウブで、左は江戸花菖蒲の「剣の舞」。

花菖蒲は江戸時代に品種改良が進み、愛でる文化が生まれました。これを研究されたのが小石川植物園の2代目園長、三好 学氏(1862~1939年)です。氏の思いを継承し、江戸の花菖蒲文化を残したいという川北氏や清水氏の情熱により、花の手入れ方法を見直し、入念な手入れを行ったとのこと。その手入れの結果が、2年前私の目に飛び込んできた「寛政」という品種の江戸花菖蒲だったのです。

「神は細部に宿る」という言葉は、諸説あるものの、ドイツの近代建築家ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエの名言としても知られています。優れた宝石の装身具は、細部にまできめ細かな職人の手仕事がみられます。地球が生み出した尊いカケラである宝石の美しさを、どのようにしたら最大限に引き出せるのか。人が潜在力のある原石を見つけたときから、宝石の仕事は始まります。作り手の情熱のもと、宝石という自然物と対話しながら、仕事は宝石に導かれて進んでいきます。地球の恵みに敬意を払い、ものづくりを進めるうちに、必然的に細部にまで行き届いた仕事になってくるのかもしれません。

宝石は人から人へと受け継がれ、価値を持ち続けるものです。ファッションとして楽しむ装身具も一時的な楽しみとして否定しませんが、文化として受け継がれる価値ある宝飾品は、作り手の情熱と地球との対話から生まれる細やかな手仕事によって誕生します。60年間宝石のビジネスに携わってきた私が、漠然と感じていたことを、花という地球の産物に情熱を注ぐ植物園の方々に明確にしていただいたのです。
小石川植物園
(東京大学大学院理学系研究科附属植物園 小石川本園)
東京都文京区白山3-7-1 
TEL:03(3814)0138

次回へ続く→

この記事の掲載号

『家庭画報』2025年06月号

家庭画報 2025年06月号

撮影/中村 淳 取材・文/清水千佳子

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