〔特集〕東京・京都・大阪&全国各地から厳選 いま訪ねたい “鮨” の新名店 世界中の美食家たちが、鮨を楽しむ旅の目的地としてこぞって日本を訪ねる時代。職人の技が冴える鮨を私たちが本当に心地よく味わえる、新たな名店を厳選してご案内します。
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日本全国を食べ歩く“鮨通”対談
「旅ずし」の醍醐味
地方ならではの新鮮な地魚と江戸前の技が融合した“地方鮨”が注目を集めています。全国を食べ歩き続ける“鮨通”のお二人が、地方鮨の魅力と名店を探る旅にご案内します。
撮影協力/鮨 ゆうき
左・大谷悠也さん(おおたに・ゆうや)1981年、広島県生まれ。飲食コンサルタント、鮨研究家、日本酒ペアリング研究家。人気ブログ「すしログ」を運営し、国内外で6500軒以上の飲食店を訪問。日本の食文化に貢献するため、「鮨酒文化振興協会」を設立。
右・柏原光太郎さん(かしわばら・こうたろう)1963年、東京都生まれ。1986年に文藝春秋に入社し、「文春オンライン」「文春マルシェ」を立ち上げる。2023年『ニッポン美食立国論』を上梓。日本ガストロノミー協会会長、食の熱中小学校校長、とやまふるさと大使。
今こそ訪ねたい“地方鮨”の魅力とは──

大谷 地方には、その土地ならではの地魚の魅力がありますね。例えばあじ一つをとっても、東京に流通するものとは異なる品種があり、各地に固有の魚も存在します。愛媛なら、瀬戸内で獲れるまながつおや白甘鯛が代表的です。特に夏場には脂がのっていながらも、深海魚ほど重くなく、それでいてうまみを楽しめます。こうした地魚に、江戸前鮨の技を施した1かんに出合えることこそ、地方鮨の最大の魅力ではないでしょうか。かつて地方では新鮮な魚をそのままにぎるスタイルが主流でした。しかし近年、都会の江戸前鮨店で修業を積んだ若い職人が地元に戻り、「その土地ならではの江戸前鮨を提供したい」という思いで店を構えるケースが増えています。
柏原 東京は世界中から一流の食材が集まる街で、鮨も洗練されていますが、どこか無難でとがった個性が感じられないことがあります。対照的に、地方には独自の魅力があります。例えば、獲れたての魚の鮮度が際立つおいしさや、市場に出回らない名もなき魚のうまみを堪能できるのは、地方ならではの醍醐味でしょう。日本は南北に長く、漁場も地域ごとに異なるため、その土地特有のおいしさを味わえるのがよいですよね。
漁師とともに魚を極める愛媛。“鮨県”を目指す富山
柏原 大谷さんが注目している地方はどちらですか?
大谷 愛媛です。愛媛では有名漁師の藤本純一さんを中心によい魚をよいお店に卸す流れができていて、精度の高い仕事をする職人が増えているんですよ。松山の「
鮨 いの」の親方の猪野さんはお弟子さんを早いうちに独立させているので、既に「鮨 いの」の系譜ができつつあります。
【愛媛】鮨 いの
熊本・天草産のこはだは仕込んでから3日目に出される。塩でしっかりと脱水し、酢で浅めにしめたこはだはみずみずしい味わい。

住所:愛媛県松山市二番町1-10-9 MITSUWA320 3階
TEL:089(948)9986
予算:おまかせ1万9210円
柏原 松山では「鮨 いの」の猪野さんと同じく、漁師の藤本さんの存在も大きいですか?
大谷 そうですね。あと、20代後半で実家の「
くるますし」に戻って二代目を継いだ高平康司さんの存在も大きいです。彼はまだ30代前半なんですけど、ベテランの同業者からも一目置かれるほど魚の仕事を細かく研究している方です。近年、猪野さん、高平さんともう1人、今治の日本料理店「しの田」の篠田さんが意気投合して、漁師の藤本さんを巻き込んで食材の研究をする活動を始めたんですよ。そうしたらほかの職人さんや愛媛の石鎚酒造の杜氏の越智さんも加わって、「愛媛の飲食店専用の最高の酒を作ろう」という展開になり、期待が高まっています。
【愛媛】くるますし
「すしログ」より
八幡浜名産の白甘鯛。しっかりと脂を蓄えた個体を選んですぐに処理を施し、脂の甘さと香り、身のイノシン酸が最高になった状態でにぎる。

住所:愛媛県松山市一番町1-6-9
TEL:089(932)3689
予算:おまかせ2万7500円
柏原 総合的な盛り上がりになっているんですね。私が注目している富山では、一昨年から知事が「寿司といえば、富山」という政策を進めています。富山は、富山湾の魚、立山のおいしい水、おいしいコシヒカリという、おいしい鮨に必要な要素がすべて揃っている土地なんですね。白えびやほたるいか、ぶりなど、地元ならではの味覚を堪能できるお店もたくさんあります。魚津の有名店「鮨 大門」だけでなく、まだ知られていない名店が多々あるんですよ。例えば新しいお店で私が注目しているのは高岡の「
咊香奈」、富山市内の「
鮨 難波」や「
鮨 藤虎」、氷見の「
成希」。滑川の紹介制のお鮨屋さん「小杉 和み」も、隠れた名店です。来年には麻布十番の「鮨しゅんじ」の鮨オーベルジュや、「東京すしアカデミー」の富山校もできる予定なので、まだまだ富山から目が離せません。
【富山】咊香奈(わかな)若くして店を継いだ2代目のご主人が、北陸の魚介に仕事を加えてにぎる鮨が好評。焼き物や蒸し物でも富山らしさを堪能できる。
住所:富山県高岡市末広町37
TEL:0766(22)3542
予算:おまかせ1万9800円
【富山】鮨 難波(なんば)広島や富山の名店で修業したご主人が1996年に開業した完全予約制の鮨店。富山湾の旬の魚介の鮨をおまかせで満喫できる。
住所:富山市公文名34-12
TEL:076(493)8686
予算:昼おまかせ7700円。夜同2万4200円
予約は
TableCheckで対応
【富山】鮨 藤虎(ふじとら)
4月が旬のあかいか(上)は細かく包丁を入れてすだちと塩をふって。コリコリの食感と甘みを持つばい貝(下)は富山では一年中水揚げされる。

住所:富山市鹿島町1-1-15 鹿島町ビル2階
TEL:070-4309-6010
予算:おまかせ2万2000円
【富山】成希(なるき)
氷見のぶりの中でも「生きがよく中身がしっかりつまった」ものを厳選したにぎりは、脂のうまみが秀逸。旬の冬に味わいたい。

住所:富山県氷見市幸町32-31
TEL:0766(74)5151
予算:おまかせ2万円