ダンサーの日々の成長が自分のやりがい

ホールバーグさんのリフレッシュ方法は「意識的に頭をオフにすること」。「考えなければいけないことが山ほどあるので、頭の中が爆発しないように気を付けています。スコッチを一杯飲んで、Netflixなどで頭を使わないですむような映画を観るとリラックスできます」。
――シルヴィ・ギエムさんをゲストコーチ迎えられてから、バレエ団の雰囲気やダンサーの士気など、何か変化したことはありますか。ホールバーグ:もちろん! 多大な影響をバレエ団全体に及ぼしてくれました。最初の頃はどちらかというとあまり存在感を出さずに、スタジオにさっと入ってきては端で見守るような感じで、指導もキトリやバジルなどメインのキャラクターを踊るダンサーたちには密にコーチングをしていたのですが……
舞台上で稽古をするようになった途端、メインではないキャラクターやコール・ド・バレエへの指導のみならず、端でフルーツを売っている売り子一人ひとりにまで細かくアドバイスをしたりして、舞台全体、隅々まで見てくださって。ダンサーとしては言うまでもないですが、指導者としても本当にすごい方です。
――ホールバーグさん自身は芸術監督になられて、変化したことはありますか?ホールバーグ:ダンサーを辞めてハッピーな気持ちになりました(笑)。
――ハッピーな気持ちに?ホールバーグ:現役で踊っていたときは、いろんなプレッシャーがあったり、移動が多くて体力的にハードだったり、多くのことを犠牲にしなければなりませんでした。それらから解放されて、好きな食べ物や飲み物を自由に摂れるようになり、普通に生活している人が感じるであろう喜びを経験することができました。もちろんダンサーとしての喜びは別物ですが、普通の人がしているような生活を送れるようになったというのは大きな変化ですね。
一方、ポジティブでない変化は、僕が同僚だったダンサーたちの上司になったことで、周りの人たちの接し方や見方が変わり、少し距離ができたことです。例えば、スタジオに入るときも、芸術監督になる前と後では空気が少し変わってしまったとか。今はほとんど無くなりましたが、さすがにそのときは一抹の寂しさを覚えました。
大きく変わったと思ったのは、この2つですね。
――芸術監督のやりがいと大変なことは?ホールバーグ:やりがいについて、ひとつはダンサーたちが日々成長していく姿を見られることです。彼ら彼女らを心から愛していますし、自分にとってとても特別な存在で、彼らの成長が自分の喜びになっています。もうひとつは、自分がバレエ団にもたらす影響の大きさでしょうか。責任が非常に重いポジションですが、そのぶんやりがいも感じますね。
大変なことは……とにかく時間がないこと。忙しくてプライベートな時間を捻出できず、友人をはじめ人間関係を構築するのが本当に難しい。ダンサー時代は、14時半までリハーサルをして、休憩を取って、公演本番を迎えるというスケジュールだったので、フィジカル的には大変でしたが、今は朝8時から22時半までずっと何かしら動いていないといけないので、時間がほとんどないんですよ(笑)。
それと、ダンサーやスタッフみんなに頼られることも大変ですかね……。悩みを相談しに来る人もいれば、泣き出す人もいたりして、時にはセラピスト、時には父親のような役割を果たさなければなりません。自分なりに使命感を持っているので、それは嬉しいことですし、喜ばしいことでもあるのですが、多くの役割を求められるのは大変だな、と。