〔連載〕二階堂ふみが体験して学ぶ 日本の美 その“奥”へ 二階堂ふみさんが、日本の文化を深く知り、その本質に辿り着くためにさまざまな学びを実践する本連載。第2回は、弓馬術礼法小笠原流三十一世宗家嫡男 小笠原清基さんの礼法の指導により、立ち居振る舞いを根本から見直し、弓道と流鏑馬(やぶさめ)を体験しました。
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第2回 弓馬術礼法小笠原流
小笠原教場の稽古場にて。小笠原清基さんのお祖母様が誂えた胴着をお借りし、身につけた二階堂ふみさん。右手に矢を2本、左手に弓を持ち、的の前に姿勢を正して、同時に心を澄ませる。
今回二階堂さんが訪れたのは、鎌倉時代から江戸時代に至る武士の礼法として継承される弓馬術礼法小笠原流の教場です。小笠原流礼法で最初に学ぶ「八等」の項の冒頭にある起居進退、すなわち起つ、歩む、坐する、拝するを、小笠原清基さんに学びます。
小笠原清基(おがさわら・きよもと)弓馬術礼法小笠原流次期宗家。1980年、小笠原流三十一世宗家小笠原清忠の長男に生まれ、小学5年生から全国の流鏑馬神事で射手を務める。製薬会社に研究員として勤務する傍ら、全国の門人らと各地で神事を執行する。NPO法人小笠原流・小笠原教場理事長。
「形を作りにいくのではなく、合理的な動作の結果が形になるのです」── 小笠原清基

自然な動きによって、相手や周囲への敬意を示す
二階堂さん(以下、二階堂) 私たち俳優は、求められる動きや型を覚えて、そのまま表現してしまいがちです。そのため、どうしても動きが表面的にならざるを得ないのではないかということが気がかりでした。その根本にあるものを少しでも理解したく、今回お訪ねしました。
小笠原さん(以下、小笠原) 私たち小笠原流礼法では、基本的に、型どおりに動いて形を作りにいくのではなく、自然の正しい姿勢から生まれる合理的な動きの連続が結果的に形となると考えています。
二階堂 型の奥に形があるということでしょうか。
小笠原 そのとおりです。
二階堂 この連載のタイトルは「日本の美、その“奥”へ」です。まさに知りたかったことを教えていただけるのですね。嬉しいです。
「体と心が一緒に前に進んで、呼吸がしやすいような気がします」── 二階堂ふみ
小笠原 たとえば剣術の強い人がいて、その人のようになりたいと動きを真似ることで型ができます。その型を稽古し習得して満足するのではなく、型と自分の動きを融合して、その人と同じように動けるようになることを目標とします。
二階堂 型を自分の中に入れて形にするということですね。
小笠原 お辞儀は、形を作ろうとして体を動かすと歪みが生じてしまいます。どの瞬間に止めてもお辞儀に見える、自然な動作の過程の連続が結果として形となるのです。礼法は、自分のためではなく、相手や周囲への敬意を示す方法。皆が調和して心地よくいられ、空気を濁らせないようにするための手立てです。
二階堂 これまで、礼儀やマナーは型が先行してしまい、心がついていかないことが往々にしてありました。お辞儀をご指導いただき、もちろん習得するには長い時間がかかるでしょうが、体の動きと一緒に心も前に進んでいるという気がしました。
小笠原 明治時代に定められた礼法の稽古の項目では、最初の八等で核となる厳格な動きを長期間かけて習得します。そこから少し崩して自然な動きを取り入れ、また基本に戻る。そうすることで、ものごとの本質が見えてくるようになります。