肥満解消にも効果があると今、注目。糖尿病治療薬「GLP-1受容体作動薬」とは？

【今月の解説者】
慶應義塾大学予防医療センター
特任教授
慶應義塾大学　名誉教授
伊藤 裕先生

いとう・ひろし　専門は高血圧、糖尿病、抗加齢医学など多岐にわたり“内臓のプロフェッショナル”として活躍。肥満と生活習慣病をはじめとする疾病との関連を明らかにした「メタボリックドミノ」を世界で初めて提唱。近著に画期的な若返り法を示した『老化負債 臓器の寿命はこうして決まる』（朝日新書）がある。

進化する糖尿病治療薬「GLP-1受容体作動薬」
肥満症治療にも威力を発揮。認知症などの臨床試験も開始

食後に消化管から分泌されるホルモンの働きを応用した薬

糖尿病治療薬が肥満解消にも効果があるとして今、注目されています。その治療薬とはGLP-1受容体作動薬（以下、GLP-1製剤）です。


「この薬はインクレチン製剤にカテゴライズされるものです。インクレチンとは食事摂取に伴い、消化管から分泌されるホルモンの総称で、GLP-1やGIPなどがあります。食事をするとGLP-1は小腸下部・大腸から、GIPは十二指腸から分泌され、インスリンの分泌を促し、血糖を低下させ、食欲を抑えます。これらの作用を薬剤に応用したのがGLP-1製剤です」と伊藤 裕先生は解説します。

このインクレチン製剤の登場により糖尿病治療は様変わりしました。「患者数が多い2型糖尿病の発症には生活習慣が深く関与し、なかでも食事は血糖管理に大きな影響を及ぼします。そして、これまで食事量を制限することは極めて困難でした。ところがGLP-1製剤には食欲減退作用があるため、患者さんは自然に食べることに対する興味が減り、食欲を我慢することなく食事量を減らせるようになり、私たち医師も血糖管理がしやすくなったのです」。

GLP-1製剤は高い減量効果を示したことから肥満症治療にも応用され、2023年には保険診療が認められています。ただし、それには肥満症治療の適応要件とプロセスをクリアしなければなりません（フローチャート参照）。

保険診療によるGLP-1製剤肥満症治療の適応要件とプロセス

日本肥満学会「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント」（2023年11月25日策定）を参考に作成

また、保険診療で薬剤を処方できる医療機関も限定されています。伊藤先生は「減量効果より健康効果を重視して使うべきです」と忠告します。そして「男性に多くみられるのですが、内臓脂肪が蓄積し、動脈硬化が進展し、糖尿病や高血圧症など生活習慣病を併存しているけれど、食事制限がうまくいっていない人は健康被害が大きいため、この薬剤を使用する意義が高いです」とアドバイスします。

一方、GLP-1製剤は糖尿病や肥満症だけでなく、さまざまな疾患に対する効果が期待されており、慢性腎臓病や肝炎、アルツハイマー病などを対象に臨床試験も始まっています。「GLP-1をはじめ、食事にかかわるホルモンの作用機序は明らかになっていないことが多いですが、実際に薬剤を使ってみると私たちが予想もしなかった効果がみられています。近い将来、多くの臨床研究を通してホルモンの働きが解明されていくことでしょう」。

・連載「最先端医学　気になるキーワード」の記事一覧はこちら＞＞＞