〔特集〕令和に受け継がれる文化と知恵 ブーム到来、「江戸」の底力 蔦屋重三郎など多士済々だった江戸時代中期から後期は、訪れた外国人も「日本人はよく笑う」と評するほど明るい時代でした。現代の私たちがもっと元気に楽しく過ごせるヒントは、そんな江戸の人々の暮らしにありそうです。芸術や食文化、そして生活の知恵などから、今に通じる江戸の心意気を探っていきます。
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創造性を触発し、現代(いま)によみがえる伝統
世界が注目の「江戸インスパイアアート」
200年の時を超え、「江戸」はアートの領域をも刺激し、現代作家の心を惹きつけるテーマの一つとなっています。工芸技法や装いといった伝統を今につなぐ、革新的な2人のアーティストをご紹介します。
伝統工芸の技と融合する独自の現代的解釈
舘鼻則孝
舘鼻則孝さん(たてはな・のりたか)現代美術家。1985年東京都生まれ。2010年に東京藝術大学美術学部工芸科染織専攻を卒業。作品はメトロポリタン美術館やヴィクトリア&アルバート博物館などにも収蔵されている。
「世界に通用する作品づくりの出発点として、自分が生まれた国の文化を学ぶ必要があると思った」。こう語るのは、日本古来の工芸や意匠を取り入れた作品で注目を集める現代美術家、舘鼻則孝さん。
代表作〈ヒールレスシューズ〉はレディー・ガガが愛用していることでも知られ、近年は伝統工芸士とタッグを組んだプロジェクトも数多く手がけています。
江戸のファッションリーダー「花魁」の高下駄が現代に花魁の高下駄から着想を得た〈ヒールレスシューズ〉。「前衛的な装いで江戸の人々のファッション観に影響を与えた花魁。高下駄は日本で幾度も流行した “厚底” にも似ていて、そのデザイン性は現代でも通用すると感じています」(舘鼻さん)。
舘鼻さんの制作プロセスにおいて要となるのが「リシンク」という言葉。意味は「伝統をただ再現するのではなく、現代の価値観にも合致するよう、自分なりの解釈を加えて表現すること」。
花魁や来迎図といった主題の持つ意味、役割にまで焦点を当て、用いる素材と技法も多岐にわたります。
来迎図から着想を得た雲と雷、光のモチーフ上・2024年開催の「江戸東京リシンク展」のために制作された〈Raiko〉。1861年創業の宮本卯之助商店とのコラボレーション。下・屛風型のアクリル板を5枚重ねて構成する〈Descending Painting(Folding Screen)〉。©NORITAKA TATEHANAK.K.Photo by GION
「江戸は生きる知恵と洒落に満ちたクリエイティブな時代。その精神性と現代とを作品で結びつけ、古くに生まれた文化が今も時代の延長線上で生きていることを示していきたい」。
東京伝統木版画工芸協同組合とともに作り上げた令和版浮世絵「東海道五十七次」の一枚《淀「與杼(よど)神社」》。制作工程の中で、舘鼻さんは下絵を描く「絵師」を担当。©NORITAKA TATEHANAK.K.