名字365 姓氏研究家の森岡 浩さんが日本人の名字を毎日紹介します。あなたの意外なルーツが分かるかも?知れば知るほど面白い、名字の世界をお届けします。
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難読名字:四月一日(わたぬき)
月日だけでできた珍しい名字です。
ネット上では、「六月一日」「十二月三十一日」など、いろいろな月日だけの名字が紹介されていますが、これらのほとんどは実在せず、実際にあるのは2つだけです。
「四月一日」はそのうちの一つで、「しがつついたち」ではなく「わたぬき」と読みます。
名字が生まれたのは江戸時代以前のため、この日付は現在の日付ではなく旧暦の4月1日に因んでいます。
旧暦の4月1日とは今では4月下旬から5月上旬ごろ。この頃になると、北国でも冬用の服である温かい綿入れから、綿を抜いた袷(あわせ)にしました。そこから、「四月一日」と書いて「わたぬき」と読むのです。
群馬県高崎市には「綿貫」という地名があり、ここををルーツとする「綿貫」という名字がこの付近に集中しています。
かつては分家する際に漢字を変えることがあり、「綿貫」から少しだけ漢字を変化させた「渡貫」という名字もあります。そうした中、衣替えで綿を抜くのが4月1日であることに因んで、「わたぬき」の漢字を「四月一日」と変えた人達がいたのでしょう。
なお、全く同じ意味で「四月朔日」と書く人もいます。
そして、「四月朔日」にはもう一つ別の読み方があります。それが福井県にある「つぼみ」です。「つぼみ」さんの先祖の家では、ちょうどこの頃春が訪れて、つぼみが膨らみ始めたのだろうと思います。
森岡浩/Hiroshi Morioka姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」など多数。
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