免疫の力を結集しがんを攻撃する「PRIME(プライム) CAR-T(カーティー)細胞療法」
がんと共存する未来へ。固形がんへの臨床応用が期待される
T細胞の遺伝子を組み換えてがん細胞への攻撃力を増強する
がん治療において外科手術、放射線治療、化学療法に続く“第4の治療法”として今、注目されているのが免疫療法です。なかでもCAR-T細胞療法の開発に世界中の研究者たちが取り組んでいます。「免疫細胞の中には、異常な細胞に対し直接的に攻撃する能力を持ったエフェクター細胞が存在します。このエフェクター細胞の一種であるT細胞を患者さんの体内から取り出し、CAR(キメラ抗原受容体)遺伝子を組み込んで作製したのがCAR-T細胞です(図参照)。

非常に効率的にがん細胞を見つけ出して攻撃する力を備えており、血液がんでは従来の化学療法や骨髄移植で効果がみられなかった人にCAR-T細胞を投与すると、6~7割が寛解することがわかっています」と玉田先生は解説します。
【今月の解説者】
山口大学医学部大学院
医学系研究科免疫学 教授
ノイルイミューン・バイオテック社
代表取締役社長
玉田耕治先生 
たまだ・こうじ 米国ジョンズ・ホプキンス大学医学部などで主任研究者として10年以上、がん免疫研究に取り組む。2011年、山口大学医学部教授に就任。15年、アカデミア発ベンチャー企業であるノイルイミューン・バイオテック社を創業し、20年に代表取締役社長に就任。次世代型がん免疫療法の臨床応用を目指す。
優れた治療効果が示されたことで、日本でも2019年から白血病や悪性リンパ腫など一部の血液がんの治療薬として健康保険が適用されています。
一方で、CAR-T細胞療法は固形がんには十分な効果がみられないため、次世代型CAR-T細胞療法の開発と臨床応用が待ち望まれています。「血液がんでは、がん細胞が塊を作らず血管内で孤立しています。CAR-T細胞は一騎打ちで戦えるため、がん細胞を殺すことができるのです。ところが固形がんでは、がん細胞が臓器の中で塊を作って増えていくため、城に立てこもっているような状況で効果が出にくいのです」。
そこで、玉田先生が率いるノイルイミューン・バイオテック社ではがんの塊の中に入り込んで戦える次世代型CAR-T細胞を開発しました。それがCCL19遺伝子とIL-7遺伝子をCAR-T細胞に組み込んだPRIME CAR-T細胞です。がんの塊の中に入り込むだけでなく、体内の免疫細胞を結集し、その司令塔となって総力戦で戦える強力な攻撃力を備えています(図下参照)。
ノイルイミューン・バイオテック社HPなどを参考に作成
「複数のがん種を対象としたヒトでの臨床試験のデータが得られつつあります。例えば、進行した肝臓がんの患者さんにPRIME CAR-T細胞を投与すると、がんの増殖が一時的に止まるといった有望なデータが認められ、そのケースでは重篤な副作用はみられませんでした」。
CAR-T細胞は1回投与すると、体内に長期間残ってがんを攻撃し、再発や転移を予防すると考えられています。「PRIME CAR-T細胞も同様の能力を備えています。近い将来、固形がんに臨床応用されると、がんと共存する未来も夢ではないと期待しています」。
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