知っておきたい女性のからだと健康 第3回(1)「虫歯治療の詰め物が外れた」「歯肉が腫れている」とわかっていながら放置している人は少なくありません。しかし、そのままでは歯を失い、全身の健康や社会参加への意欲にも影響する可能性があります。歯の状態と健康や社会参加との関係について、東京科学大学 大学院医歯学総合研究科教授の相田 潤先生(歯科公衆衛生学)に伺います。
前回の記事はこちら>>
「歯の健康」
[お話を伺った方]
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 教授
相田 潤先生
あいだ・じゅん 2003年北海道大学歯学部卒業後、国立保健医療科学院専門課程、北海道大学大学院歯学研究科博士課程を修了。東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学分野助教、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン客員研究員、東北大学大学院歯学研究科准教授等を経て、20年から東京医科歯科大学(現・東京科学大学)大学院医歯学総合研究科健康推進歯学分野(現・歯科公衆衛生学分野)教授。
日本人の約3割が虫歯に気づいても放置している
近年、さまざまな研究から、歯の状態が悪くなると全身の健康が損なわれることが明らかになってきました。
例えば、歯の喪失や痛みで嚙めなくなると食事量が減り、それが低栄養を引き起こし、フレイル(虚弱)につながるといったことがあるのです(下図)。
相田潤:オーラルヘルスと健康格差Aging&Health 2018,27(2):14 -17.を編集部で改変
また、歯周病になると認知症、虚血性心疾患、誤嚥性肺炎、関節リウマチ、骨粗しょう症などのリスクが高くなることも報告されています。
歯科公衆衛生学の専門家である相田潤先生は、歯の健康状態の悪化は、見た目が気になる、会話がしづらいなどの理由から、会食などの人との交流や社会参加を避ける要因となり、それが心身に影響するという点に注目して研究を進めています。
歯を失う主な原因は、虫歯と歯周病で、歯が折れたり欠けたりする破折(はせつ)がその次の原因です。相田先生は「破折の多くは虫歯の治療を行った歯に起こります。虫歯や破折、歯周病を合わせると歯を失う原因の8割以上になります」と話します。
厚生労働省が5年ごとに実施している歯科疾患実態調査の2022年の結果などから、日本人の約3割、約4000万人に未治療の臼歯の虫歯があると推定されています。子どもの虫歯の本数は年々減っているのですが、「乳幼児期に虫歯のあった人は大人になってからも臼歯に虫歯が多く、歯の健康状態は成長するにつれて個人差が広がります」。さらに、「15〜24歳の思春期から青年期の虫歯の有病率は40〜70パーセント程度とかなり高いのです。また、高齢者では、自分の歯が残っている人が増えている分、虫歯や歯周病になる割合も高くなっています」。歯を失うリスクは依然として高いのです。
相田先生の研究グループの高齢者を対象にした研究から、残っている歯の本数が健康や社会参加の度合いを大きく左右することが明らかになっています。次ページから紹介します。
(次回へ続く。)