今月の音楽人 ブルース・リウさん
しなやかに、生き生きと鍵盤の上を動き回る指先。一音一音ピアノと語らうように奏でられる、表情豊かな音色。
2021年10月、第18回ショパン国際ピアノコンクールにおいて、居並ぶ審査員も満場の聴衆も虜にして第1位を獲得したピアニスト、ブルース・リウさん。コンクール後は生活が一変、世界を飛び回り、常に新しい環境で、未知の人々と出会い、音楽を創造する毎日─。数年先までスケジュールは埋まっているといいます。
音楽は人生から生まれるもの。だから、自分らしくありたい
「一体何が起きているんだろうと、今も信じられない思いがします。でも何より重要なのは、自分が好きなことをして、それを皆さんとシェアできること。さまざまな場所、異なる文化の中で、たくさんの人たちと音楽を共有しながら暮らしていけるのは、とても贅沢なことだと思っています」
中国人の両親のもと、パリで生まれ、6歳で父親と共にカナダ・モントリオールへ移住。8歳の時に、「たくさんある趣味の一つ」として電子ピアノを弾き始めたのが、ピアノとの出会いだそうです。
©Sonja Mueller
「親や先生に強要されたことはなく、アンハッピーな気分になったりピアノをやめたいと思ったことは、一度もありませんでした。とても順調にきた気がします」
「ジョイフルで楽観的な性格」と自己分析するように、明瞭で安定感があり、常に新たなチャレンジを好む、絶妙なバランス感覚は、演奏においても定評です。
「音楽は人生から生まれるもの。自分そのものが映し出されます。だから、どのように演奏しようと考えるより、まず、人としてどうあるべきか、そして、自分らしくあることを大事にしています」
本来のファーストネームはシャオユー(Xiaoyu)ですが、「発音しにくいし、昔からブルース・リーに似ていると言われていたので」ブルース・リウと名乗ることにした、とエピソードもユニーク。取材の合間に、スラリと美しい指でドーナツをつまみながら、「一ついかが?」とすすめてくれる、穏やかで気取りのない27歳です。
2024年に日本で行った演奏ツアーは、どの会場でも拍手が鳴り止まず、CDのサイン会には長蛇の列。「日本の聴衆の皆さんは、驚くほど集中して静かに聴いてくださり、コンサートホールもトップクオリティですばらしい。食べ物はおいしいし、街を歩いているだけでも楽しいです。オフの一日は、箱根の温泉にも行きましたよ」
旅が続く日々。「飛行機に乗る面倒や待ち時間がなければ、エンジョイできます」と言った後、「自分で操縦できたら、飛行機も楽しめるでしょうね!」と笑います。
2025年3月にはまた日本でリサイタルを開き、新たなレパートリーを演奏する予定。音楽の喜びに満たされる時間、どんな景色が広がるのか、今から楽しみです。
ブルース・リウ1997年フランス・パリ生まれ。2011年からモントリオール音楽院で学び、15歳でモントリオール交響楽団コンクールの大賞を獲得。仙台国際音楽コンクールピアノ部門入賞。現在はダン・タイ・ソンに師事。第18回ショパン国際ピアノコンクールで、カナダ人として初めて第1位獲得。世界最古の名門レーベル、ドイツ・グラモフォンと専属契約を結んでいる。
『チャイコフスキー:四季』

ブルース・リウ ユニバーサル ミュージック 3300円
ブルース・リウの新譜は、音楽への想いを見つめ直すきっかけになったという、巨匠チャイコフスキーの愛らしい小品。「季節の移ろい、自然の描写、親しい人に囲まれて過ごす日々の暮らしを、日記をめくるように思い返しながら弾きました」。3月のリサイタルでも演奏予定。
ブルース・リウ ピアノ・リサイタル20252025年3月17日(月)ミューザ川崎シンフォニーホール
2025年3月18日(火)東京オペラシティ コンサートホール
ジャパン・アーツぴあ:0570-00-1212(10時~16時 火曜定休)
URL:
https://www.japanarts.co.jp/concert/p2120/