村雨辰剛の二十四節気暮らし庭師で俳優としても活躍する村雨辰剛さんが綴る、四季折々の日本の暮らし。二十四節気ごとに、季節の移ろいを尊び、日本ならではの暮らしを楽しむ村雨さんの日常を、月2回、12か月お届けします。
立春〜人生の新たなチャプター

徳川園の「龍門の瀧」にて、自前のきものをきりりと着こなして。
はじめまして、村雨辰剛です。2025年の新しい春の産声とともに、「二十四節気」をテーマとした僕の連載がスタートします。厳しい徒弟制度を経て念願の庭師となり、日本に帰化してから早くも10年。日々の暮らしや庭師の仕事を通して季節の機微に触れるなかで、改めて季(とき)の節目を尊ぶ美意識に惹かれています。そこで、この機会に「二十四節気」の意味合いを改めて学びながら、僕の人生や愛猫との日々を重ねてご紹介していきたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。
まっすぐに流れ落ちる滝を見つめ、これまで歩んできた人生に想いを馳せます。
「立春」は、暦の上では春の始まり。旧暦では新しい一年の始まりを告げる節目の日です。実際にはまだ身の引き締まるような厳冬にありながら、少しずつ日脚が伸びることに、昔の人は希望を見出したのでしょうか。撮影で訪れた名古屋の徳川園には、入り口のほど近くに「龍門の瀧」があります。この滝は、人生の逆境に打ち勝つ登竜門伝説の美学を投影したものだそうです。まっすぐに流れ落ちる水の流れを眺めるうちに、19歳で日本に渡り、語学教師の仕事をしながら生き方を模索していた僕自身の人生が重なりました。
鯉の滝登りでも人生においても、必死に頂上を目指して目標に到達したときに、初めて自分の成長に気づくような気がします。右も左もわからず修業に励んでいた時には、今から思うと反省する出来事もたくさんありましたが(笑)、僕自身は安定した生き方を求めてきませんでした。ひとつの目標をクリアすると、その場に長居することなく「次のチャプターへ進もう」と、変化を求めて踏み出したくなるのです。この“変化”を怖がる方も多いですが、僕は変わらないことのほうが怖いと感じます。失敗をして後悔するより、やらない後悔のほうが大きい。むしろ、失敗は経験の引き出しになるというのが僕の人生のモットーです。
「一番好きな庭木は黒松です」と語る瞬間、思わず笑みがほころびます。
「立春」ということで2025年の新たな挑戦は、自分の植木畑を持つプロジェクトです。職人としてひとつ上のステージに到達するには、庭を整える技術だけにフォーカスするのではなく、理想の庭をつくるための木々を育てることが大切だと。昔の庭師の多くは庭木の生産から剪定まで一貫して手がけてきました。最近ではそこまでやっている人が非常に減ってきていると聞くと、日本の文化が失われていくことを感じます。
なかでも僕が手がけたいのが、大好きな庭木のひとつである松を育てること。苗木から育てる場合もあれば、美しい古木を探して手塩に掛けるケースもあるでしょう。僕の代で思い描いた木へと成長させられないかもしれませんが、それを引き継いでもらえる礎を築くことも見据えて、長期スパンで考えています。その一歩を踏み出すのが今年です。数年後に、僕の植木畑を「家庭画報.com」の皆さまに紹介できる機会があれば嬉しい限りです。これから月に2回お届けしていきますので、どうぞ楽しみにご覧ください。
村雨辰剛(むらさめ たつまさ)1988年スウェーデン生まれ。19歳で日本へ移住、語学講師として働く。23歳で造園業の世界へ。「加藤造園」に弟子入りし、庭師となる。26歳で日本国籍を取得し村雨辰剛に改名、タレントとしても活動。2018年、NHKの「みんなで筋肉体操」に出演し話題を呼ぶ。朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」や大河ドラマ「どうする家康」、ドラマ10「大奥 Season2 医療編」など、俳優としても活躍している。著書に『僕は庭師になった』、『村雨辰剛と申します。』がある。