名字365 姓氏研究家の森岡 浩さんが日本人の名字を毎日紹介します。あなたの意外なルーツが分かるかも?知れば知るほど面白い、名字の世界をお届けします。
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熊谷(くまがい)
「熊谷」という名字は全国ランキングで200位以内というメジャーな名字です。昔はクマのいる谷は珍しくはなかったに違いない、と思いがちですが、この「熊」は動物のクマとは限りません。
古い言葉では、山の襞が曲がりくねっている場所や、川が蛇行しているところを「くま」と言い、こうした場所にある谷間が「熊谷」なのです。もちろん、動物のクマに因むものもあるとは思いますが、多くは地形に因むものでしょう。
そして、こうした地形に因む最も有名な地名が埼玉県の熊谷です。
熊谷の由来には諸説ありますが、蛇行する荒川を指した「曲谷(くまがや)」に由来するという説が有力です。そして、ここをルーツとする熊谷氏が著名です。
熊谷氏は桓武平氏の一族です。かつては朝廷に仕えていましたが、罪を得て熊谷に逃れ「熊谷」と名乗ったのが祖とされています。
平安物語の「敦盛の最期」に登場する熊谷直実は源氏方を代表する武将の一人で、この子孫は鎌倉幕府に仕えて各地に広がりました。今でも、多くの熊谷一族はこの子孫と伝えています。
ところで、地名の「熊谷」は「くまがや」です。ところが、ここをルーツとする熊谷氏は「くまがい」と読みます。どちらかが途中で変化したものだと思いますが、地名はかなり古くから「くまがや」で、名字も古くから「くまがい」が主流であったとみられ、はっきりしません。
現在、名字の「熊谷」は9割以上が「くまがい」と読みますが、熊谷市のある埼玉県では2割ほどが地名と同じく「くまがや」です。
一方、「~谷」という名字を「~たに」と読むことの多い関西や中国地方では、「熊谷」も「くまたに」と読むことも多く、鳥取県では「くまたに」が過半数となっています。
独特なのが福岡県で、ここでは「くまがい」に次いで「くまがえ」と読むことが多くなっています。
森岡浩/Hiroshi Morioka姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」など多数。
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